出会いを、もう一度



これは夢か、幻か。

僕の目の前に立つ彼女は、本物だろうか。



髪は少し伸びて、新しいスーツに身を包み、過去の僕らと初めて対峙したときと同じような緊張した面持ちで、彼女はそこにいた。
清嘉学院に通っていたときも、学院の外で彼女を見たことがないわけではなかったけれど、今この場所、この日にスーツでいるということは、そういうことなのだろう。

彼女が、僕と同じ大学に入学した。



あの衝撃的な出会いから、約1ヶ月が過ぎようとしている。
しかしまぁ、あのとき彼女に話しかけてもいないので、僕が一方的に気づいただけだけれど。
僕がこの学校にいるということを、彼女は知っているのだろうか。
「…別に、知っていたところでどうすることもありませんが」
自分にしか聞こえないように呟き、僕は新たに黒板に書かれた情報をノートに書き写した。



「隣、空いてる?」
ガヤガヤと騒がしい学食の中、はっきりと聞こえた僕に向けられたであろう言葉に振り向く。
そこにいたのは、フレッシュマンからクラスが一緒の相田くんだった。
…そんなに話したことはないけれど。
屈託のない笑顔と物怖じしない性格の彼は、高校時代のある1人の生徒会仲間を思い起こさせた。
「…どうぞ」
「ありがと!」
にっこりと微笑み、ランチプレートをテーブルに置く。
僕と全く同じ献立にわずかながら驚いていると、彼もそれに気づいたのか、「だよね!」と僕の肩を叩きながら席についた。
「やっぱりB定食だよね、今日は」
「はぁ…」
「親子丼と迷ったんだけど、やっぱり煮魚かなって」
「はぁ」
「そこはつっこんでよ」
「…はぁ」
とことん葉月とテンションが似ているな、と思わず重ねてしまう。
懐かしいなと思いながら、隣で話す彼に満足にできない相槌を打ちつつ、ご飯を口に含んだ。



「…直江先輩?」


聞いたことのある声に顔を上げる。
「へ?」と間抜けな声を上げたのは、隣に座る相田くんだった。
「お、お久しぶりです!」
「えぇ。お久しぶりです」
思ったよりも冷静な対応に、自分で驚く。
しかし、静かに飲み込んだご飯が喉に詰まってる感覚がするのは、少なからず僕が緊張している証だ。

「…先輩も、この大学だったんですね」
「ええ」
「………」
「………」
言葉が続かず、彼女も何を言っていいのかわからないのか、左右に視線をさ迷わせる。
こんなとき、どうにもいい言葉が浮かんでこないのは、高校時代の僕の立場を彼女が思い出させるからだろう。

今は敵対していない。
ただの先輩と後輩だ。

そんな立ち位置、僕は知らない。

…それと、たぶん。
やっぱり僕がこの大学にいることを、彼女が知らなかったということが、胸に引っかかったのだ。


「と、友達が待ってるので」
「あ、はい」
「じゃあ…また」
小さく微笑み、彼女は僕に背を向けた。

また、ということは。
次があるということか。

緩みそうな口元を、不自然にならないように手で隠す。

「…直江くん、わかりやすいね」
「はい?」
「あの子、彼女候補?」
「な…!こ、高校のときの後輩です!」
「ただの後輩?」
「…ただの…では…」

ない、のだろうか。

わかるのは、自分の頬がきっと赤くなってるんだろうなということだけ。

ただの後輩、とは。
言いたくない自分がいる。

「…ふぅん?」
にやにやとからかうような笑みを浮かべる相田くんを無視し、遠くにある彼女の背中を見つめた。
何人かの女子と何か言葉を交わしたあと、席につくのか、椅子を引く様子が見える。
何をしてるんだと自分でも思いながらも、遠くの彼女の姿に視線を注いだ。

「……あ」

ぱっとこちらを振り向き、少し照れたように微笑む彼女の笑顔が僕に向けられる。
そして小さく会釈をし、何事もなかったかのようにまた僕に背を向けた。



ひとつ、ふたつ。

心が跳ねる。


とくんと響いた胸の高鳴りは、何かの始まりを告げるようだった。




To be continued...

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