浅はかなのも、悪くない


インターハイも終わり、部活も引退。
彼女と付き合い始めてから初めてのイベントは、文化祭だった。

とは、言っても。

「…やっぱり」

一緒に回ろう、と約束した。
そして、たった今見つけた、星月学園唯一の女子生徒でもある彼女。
ここぞとばかりにメイド服なんか着させられている。
喫茶店を催すと聞いたときから、嫌な予感はしていた。
ウェイターだけで、彼らは我慢するだろうかと。

「…似合ってる、けど」

するはずが、なかった。

周りの男子のにやけた顔。
彼女の幼馴染みまで、彼女を見て顔を赤らめている。
下心が見え見えじゃないか。

「幼馴染みは役に立たねぇな」
「……」
隣にいる一樹は、はぁとぞんざいにため息をついた。
そして、僕の肩をぽんと叩いてそのまま歩いていく。
「一樹?」
「会長様だからな、見回りがあるんだよ」
「あ、そうか…」
「誉も、早くあいつ迎えに行け」
「…うん」
教室にいる彼女に目を向けると、ちょうど注文を受けているところだった。
にこやかな笑顔。
嬉しそうな、可愛い彼女。

でも、だめ。

そんな可愛い笑顔。

「彼女、もう連れていっていいかな?」

他の人の前で見せたら。

「誉先輩…?」
「迎えに来たよ。行こう?」
「え、でも、あの」
「行きたく、ない?」
「そういうわけじゃ…っ」

困ったように笑ってみせる。
彼女はこの顔に弱いらしい。
僕からの誘いと、自分に割り当てられた仕事との間で戸惑う彼女。

僕はなんて性格が悪いんだろう。
彼女が困るとわかっているのに。

だけどね。
許してほしいんだ。

いつだって。

僕を選んでほしいから。

「…着替えてきます!」
「え」
「本当は、もう交代の時間だったんです。迎えに来てくれて、ありがとうございます」
ふんわりと微笑む彼女を見ていると、自分がどれだけ腹黒く、浅はかなのかがわかる。
思い知らされる。
嬉しく思う自分が恥ずかしい。

だけど、それでも。

「その服、似合ってるよ。そのままでいいんじゃないかな」
「そ、そうですか…?」

「…できれば、誰にも見せたくなかったけどね」

ぽつりと呟き、聞こえなかった彼女は「何か言いました?」なんて聞き返してくる。
「ううん、何も」
にっこりと笑って、手を繋ぐ。

だけど、それでも。

「今から僕が、君を独り占めできるんだなって」

君の隣にいられるのなら。




浅はかなのも、悪くない。




(…出たか、“金久保様”)
(あれが噂の。見るのは初めてです)
(夜久が絡むとああなるんだ)
(…宮地くんも大変ですね)
(青空も委員会であいつと一緒だろう。気を付けろよ)


end



金久保様の笑顔は無敵







「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -