ありがとう


いつもより少し豪勢な夕食。

いつもと違う特別な日。

きみは今年も、僕の生まれた日を、愛しそうに祝ってくれるんだろうか。





「誉さん」
すり、と僕の肩に頬を擦り寄せ、甘えたような視線が僕を見上げる。
「…どうしたの?」
ふわりとやわらかい前髪を撫でると、気持ち良さそうに目を閉じた。
その様が愛しくて、僕は思わず彼女の頬に口付ける。

いつもだったら、照れて顔を真っ赤にして、僕から隠れるように顔を俯けてしまうのに。
今日ばかりは違うようで、愛らしい唇が、僕の頬に一瞬だけ触れた。
真っ赤な顔をしていても、僕から目をそらさない。

潤んだ瞳が、僕を見つめていた。

「…誘ってるのかな、きみは」
「………」
「今度は、ここにキス、してもいい?」

ふに、と人差し指で彼女の唇に触れると、少しだけ困ったように眉尻を下げる。


ダメ、かな?


囁くように聞けば、ふるふると小さく首を横に振ってくれた。
ありがとう、と呟いて、ゆっくりとその可愛らしい唇を塞ぐ。
ああいつもなら寝ている時間だと、頭の片隅でそんなことを思いながら、啄むようなキスを繰り返した。

ひとつの布団に並んで横になっていたはずなのに、いつの間にか、僕が彼女を見下ろすような体勢になっている。
やっぱり彼女は僕を見つめたまま、僕の浴衣の裾をきゅっと握った。

「…もうすぐ」
「ん?」
「もうすぐで、今日が終わります」

ぽつりと呟いた彼女の言葉に、枕元に置いてあった時計に視線を向ける。
今日が終わるまで、あと数分。

そうか、と心の中で呟く。

そう、もうすぐ、明日になる。


「今日の終わりも、明日の始まりも、傍にいられて嬉しいです」


そう言って、彼女は笑った。

幸せそうに笑ってくれた。

「…僕も、嬉しいよ」

ふふ、と微笑む彼女の額にキスを落とし、絡めるように手を繋ぐ。

本当は、少しだけ疚しい気持ちが膨らんでなくもなかったけど、そのまま彼女をぎゅっと抱きしめた。

言葉もなく、ただお互いのぬくもりを感じ合う。
枕元の時計の秒針の音を聞くかのように、僕は耳をすませた。

カチン、と一際大きな針の音は、時針だ。

昨日が終わり、今日に。


14日、になった。


「誕生日、おめでとうございます」

ちゅ、と可愛らしいキスがひとつ。
嬉しいプレゼントのお返しに、僕も触れるだけのキスをした。

愛らしい笑顔を浮かべる彼女に、僕はやっぱり疚しい気持ちを抑えることなんて出来そうになくて。
彼女を見下ろすように体勢を立て直し、首筋に顔を埋める。


「昨日の終わりも、今日の始まりも、月子さんが傍にいてくれて、僕は幸せだよ」
「…ほまれ、さん…」
「でもね。もっともっと近付けたら…もっともっと幸せ、かな」


ね?と目だけで訴えると、彼女は今になって僕から目をそらしてしまう。
真っ赤になった顔を隠すように手で覆いながらも、返ってきたのは小さな肯定。

「…可愛い、月子さん」


今日限定の、ちょっと豪勢な夕食。

ひとつだけ重なった年齢。

変わるものは、それだけ。

「今年も、よろしくね」
「…お正月みたい、ですよ?」
「ふふ、本当だ」

いつだって特別で、いつだって変わらない日常が、僕を待っていて。

そこには変わらず、きみがいてくれる。

「もう一回…いいですか?」

「…うん」

「お誕生日、おめでとうございます」

その言葉をも食むように、僕は彼女の唇を奪った。




ありがとう

終わりも始まりも、きみと。




end


誉先輩
誕生日おめでとう!!


20120514







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