ありがとう


歳を重ねること。

それは自分にとって特に何かがあるというわけではなく、しかし、ないがしろにしているというわけでもない。
この世に生を受けた日が大切でないわけがないからだ。
両親や今まで関わってきた人たちに、生まれてきたこと、今年も無事に歳を重ねることができたことを改めて感謝する。

誕生日とは、そういう日だ。



「龍之介らしいね」
「む…そうか?」
そうだよ、と笑い、月子は真っ白なクリームを口に含んだ。
美味しいと言葉にしなくても、月子の緩んだ口元が、ケーキの感想を雄弁に語っている。
嬉しそうな彼女の笑顔を見ながら、俺は自分の前に切り分けられたケーキを食べた。
「………」
うん、うまい堂のケーキはホールでもブレずに美味い。
気づけば俺を見ていた月子は、ケーキを口にしたときよりも幸せそうに微笑んでいた。



「でも、感謝の日っていうのは賛成」
俺の腕の中に収まる月子が、すり、と胸に頬を寄せて呟いた。
「月子?」
「ん…」
至近距離で俺の顔を見上げてくる月子の瞳はとろんとしていて、俺の誕生日の間は起きていたいと言っていたが、睡魔に襲われているのは明らかだ。
誘っているように見えるのは、ただの俺の願望として抑え込む。
無理をしないでいいと言えば、月子は駄々をこねるようにいやいやと首を横に振った。

「…私も、ありがとうって言いたいな」

ぽつりと囁くように言った月子に、吸い寄せられるように近づき、キスをした。


ごく自然に触れ合った唇は、甘い余韻を残して離れる。
それがなんだか寂しくて、月子の熱い吐息も飲み込むように、俺は彼女の唇を塞いだ。
月子が漏らす甘い声に、身体が熱くなる。

「月子…」
「ん…」
ぎゅう、と月子の細い身体を抱きしめたが、遠慮がちに胸を押し返されてしまった。
小さな抵抗を感じ、ばっと身体を離す。
「、すまない…!」
「ち、違うの!」
咄嗟に背を向けようとした俺の身体を押さえ、胸に顔を埋めた。
「違うの!嫌とかじゃないの!」
だからそっち向かないで、と必死に縋ってくる月子。
絶対に赤くなっているだろう自分の顔を手で隠すようにしたが、月子にすんなり退かされてしまう。
視線をそらそうにも両頬をがっちりと固定され、逃げられそうもなかった。

「…さっき、言ったこと」
「む…?」
「私は龍之介が生まれてきてくれて嬉しい。だから私も龍之介のご両親とか、龍之介と今まで関わってきた人たちに、ありがとうって言いたい」

俺の目を真っ直ぐに見つめながら、真っ直ぐな言葉を紡いでいく。
すっと胸に染み込んでくるのは、月子の言葉だからだろうか。

「でもね、一番言いたいのは、やっぱり龍之介にだよ」
「…俺に?」
うん、と月子は俺の頬を撫で、微笑む。


「生まれてきてくれて、ありがとう」


これだけはちゃんと言いたかったの、とまた俺の胸に頬をすり寄せ、背中にまわす腕に力を込めた。

甘えるような仕草の月子を改めて抱きしめ、彼女の髪にキスを落とす。
ふふ、と笑う月子の顎に指をかけこちらを向かせると、俺はまた彼女の唇を塞いだ。


お前は気づいているだろうか。

俺が感謝したい人。

一番は、月子なんだが。


「…わかってなさそうだな」
「え?」
「いや」

今日をお前と迎えられて。


「幸せだなと思っただけだ」




ありがとう。

今年も俺は、幸せだ。




(寝ないのか)
(…眠れなくなっちゃった)
(そ、そうか…)
(………)
(……もっと、触れてもいいか?)
(…うん)


end



宮地誕生日おめでとう!


20111103







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -