甘党王子


宮地くんは、普段あんなに力強い弓を引く彼からは想像できないほど、おそろしく繊細な動作をするときがある。

真剣な目。
私と向かい合って座ってるのに、私には目もくれない。

口許を小さく緩めながら、宮地くんはケーキを箱から取り出していた。

…わかってるけど。
うまい堂のケーキはすごく美味しいし、私も好き。
それに、お昼ご飯にケーキを食べるくらいに甘いものが好きってこともわかってる。
だけど、なんだか寂しい。
ケーキにヤキモチなんてばかみたいだ。

だから私は余計なことを言わないように、黙って宮地くんがケーキを取り出し終わるのを待った。
ほら、と私の前に置かれたショートケーキ。
ありがとう、と言いつつ、愛されてて羨ましい、と思いながらフォークでイチゴをつつく。

「…ショートケーキは嫌だったか?」
「え?」
「いや…さっきから浮かない顔をしているから。嫌なら、俺のと交換するか?」
俺は構わないから、と宮地くんはティラミスを差し出す。

ああ、優しいな。
本当は食べたいのに、本当の本当は両方食べたいくせに、私に気を遣ってくれてる。
クリームが好きなくせに、自分はティラミスを選んで。
私、だめな彼女だ。
ケーキにだけじゃなくて、私にもちゃんと優しい。
いつも、私はこの答えに辿り着くのに。
ヤキモチなんて、本当にばか。

「…ううん、これがいい」
「そうか。…無理してないな?」
「してないよ。ありがとう…」
自分の気持ちが恥ずかしくて、イチゴを口に入れて俯く。
宮地くんもそれ以上は何も言わず、ケーキを口に運んでいた。

半分ほど食べたところで、そういえば、と宮地くんが立ち上がる。
「どうしたの?」
「…紅茶を淹れる。気付かなくて悪かった」
「あ、て、手伝う…!」
「…ああ」
ふ、と笑って、座っている私に手を差し伸べてくれた。
男の人らしい力強い手なのに、私の手を握るときは、慎重になってるのがわかる。
潰さないように、少し隙間を開けて握ってくれる。
そんな気遣いがくすぐったくて、いつも私は少し力を込めて握り返すのだ。

「あ、これ!」
「お茶会のときの残りを、青空に言って貰ったんだ」

2人並んでキッチンに立ち、宮地くんは私の手を左手でしっかりと握りながら、右手をてきぱきと動かす。
だけど、ヤカンを取り出したときに、宮地くんはぴたりと動きを止めてしまった。
片手では限界が来たらしい。
ふふ、と笑って、私は空いている方の手でヤカンの蓋を開ける。

「む…」
「水、出すよ?」
「…ああ、ありがとう」

きゅ、と少しだけ握る手に力を込められ、胸がきゅうっと鳴いた。
自然と宮地くんの腕に体が密着していく。

「な…っ、お、お前…!」
「…水を入れるときくらい、放せばいいのに」

なんて可愛くないことを言ってしまう私は、だいぶ天の邪鬼だと思う。
だってそう言いながら、さっきよりも強い力で宮地くんの手を握ってる。
そんな私を見てか、頭上で小さい笑い声がした。
そのあとに、頭に軽い衝撃。
宮地くん?と顔を上げれば、視界いっぱいに広がる宮地くんの優しい笑顔。

「…お前が一番だ」
「……え?」
「お前の手を放すくらいなら、紅茶なんて飲めなくていい」
「み、宮地くん…」
「お前と食べるケーキだから大事にするし、いつもより美味しい」

イチゴみたいな真っ赤な顔をして、ケーキみたいな甘い言葉をこぼしていく。

宮地くんは、宮地くんの全部で私を大事にしてくれていて。
ぷいっと顔をそむけても、手は繋いだまま。

「…俺は、お前しか見てない」

小さいけど、確かに届けられた言葉は、私の心を優しくさらっていった。




私だけの甘党王子。




(ね、ね、宮地くん)
(なんだ?)
(左手じゃうまく食べられない)
(だ、だからお前は…!)
(クリームちょっとあげるから)
(…食べさせてやる)


end



『宮地と言えば』
とりあえずケーキかな、と

月子は宮地ルートだと
小悪魔っぽくないですか…?



20110428







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