原因はきみ!


いつも3人で騒いでいたその中に、一輪の可愛い花が咲いた。
…なんて言うと犬飼は絶対にバカにするし、小熊は要らないフォローをしそうだから言わない。
だけどそれくらいに、俺にとっては嬉しくて、大事にしたい存在が加わったということ。

星月学園の紅一点、弓道部の勝利の女神。

そんな大それた肩書きを持った彼女に、俺は恋をしていた。


『その花のことばっか考えてるから風邪ひいたんじゃねーの?』
「は、はぁぁ!?な、なんでそれを…!」
『…お前ホント、考えてること駄々漏れだから。それ自分で言ってたからこの前』
「うぅぅ…」
ああ、また熱が上がったような気がする。
恥ずかしすぎて、もうこの電話を切ってしまいたい。
すると、電話の向こうでガラガラという音が聞こえた。
確か、この音は。
「犬飼、まだ弓道場?」
『?ああ、よくわかったな。今入り口前。夜久待ってるとこ』
4人で帰ることが多くなり、最近は何も言わなくても帰りは4人で固まるようになっていた。
でも、今日は俺が風邪をひいて学校を休んだから、3人。
「そうだ犬飼、小熊に釘を刺すから代われ!」
『あー?あいつ今日は急ぎの課題があるとかで、もう帰ったぜー』
「……え」
俺が風邪でいない。
小熊もいない。
ってことは。
「ふ、ふたりきりじゃんか!」
『そうなるな』
「え、ちょ、やだ!羨ましすぎる!」
『うるせーぞ病人。俺だってたまには女子と2人で青春下校したい』
ししし、と犬飼のニヤついている顔が浮かぶ。

そりゃ犬飼が思うこともわかるよ。
だってほぼ男子校の学校で、女子がまったくいない状態で、健全な男子高校生は満足なんてできないってわかってるよ。

だけどさ、それでも。

譲れないものっていうのは、あるんだ!

「…お、俺は女子じゃダメ!」
『は?』
「犬飼は女子でいいんだろ?でも、俺は女子じゃダメ!」
『…白鳥?』

「夜久じゃなきゃ、俺は嫌なんだ!」

電話を切り、ふらつく足を無視して制服に着替える。
熱のせいなのか、涙まで零れてきたけど、今は気にしていられない。
ブレザーを掴み、そのまま外に飛び出した。

もうすぐ冬になろうっていうのに、暑くてしょうがない。
走ってるから体温が上がってるんだ。
熱があるってのもあるかもしれない。
暑くて、熱くて、もうよくわからない。
ただ、俺の足はまっすぐ弓道場に向かっていた。
もういないかもしれないけど、それでも、走らずにはいられない。
今日1日顔を見てないだけで、こんなにも恋しく思うものなんだ。

会いたいよ、夜久。


「…あいつ、熱出て熱くなってんな」
「犬飼くん」
「おー夜久。お疲れ」
「うん、お疲れさま…」
「なんだよ、元気ねーな」
「え…そ、そんなことないよ?」
「まーわかってるけどな!…お前は女子だよ。間違いない」
「…いきなり何の話?」
「たぶんお前の心配の元がもうすぐ来るから、ここで待ってろ」
「……白鳥くんが?」
「ってことで俺は先に帰る。…あ、あと」
「?」
「俺は白鳥が来るなんて言ってないから。ま、当たってるけど」


たどり着いた弓道場の前に、ひとつの影。
あの華奢なシルエットは見間違うはずもない。
「…や、夜久…っ!!」
「白鳥くん!?」
「い、いた…!帰って、なかった…っ」
全力疾走から、話す言葉も途切れ途切れになってしまう。
体も熱いけど胸も熱い。
ああもう、俺ってば恋する乙女みたいだ。
「今日は風邪で休んでるって…」
「うん…!そ、そうだったんだけど…っ」

夜久に会いたかったから。

熱のせいだと自分に言い聞かせて呟いてみた。
いつもなら、こんな2人きりの場面で俺が言えるはずもないし、夜久の耳にだって届かない。
俯きながら息を整える。

…聞こえたかな。

深く深呼吸をして、チラリと目の前に立つ夜久を見る。
「何か言った?」と不思議そうな顔を向けられるだろうか。
…それでもいいな。
どんな表情でも、夜久が可愛いことに変わりはな…

「…え」
「……っ」
可愛い顔。
だけど、真っ赤だ。
熱が確実に上がったであろう俺と同じくらい、真っ赤な顔。
「夜久…?」
「…わ、私も…」

白鳥くんに会いたかった。

ぽつりと呟かれた言葉。
聞き逃してしまうほど小さい声で。
俺もいつもこんなトーンで言ってたのかなと頭の片隅で思ってしまう。
「…も、もう一回」
「え?」
「もう一回、言ってくれ」
幻聴かもしれない。
高熱が出すぎて、俺の都合のいいように聞こえちゃったのかも。

だから、もう一回、言って。

ああ、頭がボーッとする。

「…白鳥くんに、会いたかった」


…熱なんて、下がるわけないじゃん!




原因はきみ!




(お、俺も会いたかった!寂しかった!)
(…風邪ひくと、心細くなるっていうよね…?)
(それは、あ、あるかもしれないけど…!)
(…誰でもよかった?)
(誰でもじゃない、俺は夜久がよかった!)
(…顔、真っ赤)


end



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白鳥弥彦
萌えるじゃないか!

20101007







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