雨の夜にも星


2年生組


今年はダメかなぁ、と月子は窓の外を見つめ、寂しそうに呟いた。


「雨、止まないな…」
窓の外に目をやり、独り言のように呟く。
それと同時に、昼間に見た月子の寂しそうな横顔を思い出し、胸がちくりと痛んだ。
「去年は晴れたのにな、七夕」
「月子、残念がってたね」
ほふく前進しながら窓にじりじりと近づく哉太の背中に、どっかりと羊が重なる。
「今日の部活のミーティングでも、珍しくぼんやりとしていた」
「廊下で少し話したときも、元気がなさそうでしたけど…」
それが原因でしょうか、と青空くんは小さく息を吐き、宮地くんと共に視線を窓へと移した。
「星が…本当に好きだから…」
「…うん」
ぽつりと呟く神楽坂くんに、俺はそう答えるので精一杯だった。


みんなが俺の部屋に集まったのは、単なる偶然だったと思う。
たぶん、きっと。
とある用事で一時帰国し、星月学園に遊びにきた羊は俺の部屋に泊まることになり、ついでにと哉太まで泊まることになった。
部活帰りの宮地くんと、生徒会の用事で帰りが遅くなった青空くんと寮の入り口でばったり会い、何かを言いたそうな2人も俺の部屋へ来る運びとなり。
道の端で眠ってしまっていた神楽坂くんという大きな拾い物をしてしまって。

そして、今に至り。

お茶会のメンバーが、再び集まったわけなんだけど。


「さすがに6人も入りゃ、寮の部屋も狭いしむさ苦しいな」
「すみません。僕はすぐに帰りますから」
「俺も帰る。…あいつの元気がない理由もわかったことだしな」
「僕たちは、それが気になっただけですもんね」
「ああ」
「ほら、青空も宮地も気を遣ってるじゃないか!哉太のせいで」
「俺のせいかよ!」
「哉太以外ないだろ!」
「くっそ。おい羊、ちょっと表出ろ!」
「…雨だからやだよ」
「あ…そっか」
気の抜けたような哉太の言葉に、部屋の中がしんと静まり返る。

雨。

月子の心を曇らせるもの。

だけど、俺たちにはどうしようもなくて。

雨の音が、何もできない俺を責めているような気がした。


「“雨の夜にも星”」

ぽつり、と黙っていた神楽坂くんが呟く。
視線は窓の側から動こうとしない俺へと真っ直ぐに向けられていた。
「“雨の夜にも星”、ですか?」
「どういう意味なんだ、それは」
ん、と少し考えるような素振りをして、神楽坂くんはみんなを見渡す。
「こういう、こと」
よくわからなかったのか、宮地くんと青空くん、哉太と羊はそれぞれ顔を見合わせた。
次の言葉を待つように、俺は不思議な彼を見つめる。
「…大丈夫」
どんなにあり得ないことでも、可能性がないわけじゃない。と神楽坂くんは続けた。
「だから大丈夫…見える」
きっぱりと断言した神楽坂くんは、窓の側に静かに座る。

まるで星を探してるみたいに、視線は真っ暗な空へと向けて。

それにつられて、俺も視線を空へと向ける。
神楽坂くんの不思議な雰囲気に、いつの間にか6人全員で、窓の側で空を見つめていた。

「───あ」

キラリと光る、一粒の星。

雨雲の向こうに広がる宇宙を証明してくれるもの。

「あった!あれ星じゃね!?」
「本当だ!ひとつだけ光ってる!」
「まさか、本当にあるなんて…」
「神楽坂の言葉の通りだな…」
「…見えた…」
「ああ…」

自然と手にしていた携帯電話で、月子の番号を呼び出す。

「あ、月子?空、見てごらん」

星が見えるのと。

『──あ!』

月子が笑ってくれるのを。

俺は今日、ずっと待ってたんだ。



これは、3年生になって、あいつと繋がる6人が偶然にも一同に会し、並んで雨降る七夕の夜空に星を見つけた日の出来事。




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