私の彼は芸能人です


ドアを叩く音を聞きながら、私は何度目かもわからない渚くんとのキスに酔いしれていた。

ああ、幸せ。

…とは、言ってられない状況になってきて。


『ナギサ!ここを開けろ!』
マネージャーさんの必死な声がドアの外から聞こえてくる。
「…渚くん」
「しつこいな…もう」
むっとしながら呟いた渚くんの顔は、吐息が唇にかかるほど近くにあった。
「…っ」
「せっかく、ひめがこんな可愛い顔して誘ってくれてるのに」
微笑みと一緒に、唇にやわらかい感触。

渚くんは、結構キス魔だ。


ここは渚くんの部屋。
珍しく仕事が1日ないということだったので、こうしてお邪魔して、二人の時間を過ごすことになっていた。

…けど。

「…もしかして」
「ん?」
「今日…お仕事だった?」

一瞬走る沈黙。

「や、やっぱり、仕事だったん」
言葉の途中で唇を塞がれる。
甘く深いもので、私は引きずりこまれそうになるけれど。

「…っ、誤魔化さない、で?」
「…む」
頬を膨らませ、視線をそらす渚くん。
こうして素顔を見せてくれるのは、すごく嬉しい。

でも。

「お仕事…だった、の?」
「…今朝、マネージャーから連絡があって、急に」
しおらしく白状する渚くんに、私は俯いた。
「…だめ、でしょ。今の渚くんは、私より仕事を取るべきだと思う、よ?」
「ひめ…」
そうは言ったって、やっぱり寂しいから。
なんだか泣きそうになって、顔を上げられない。

泣いたら迷惑になる。

渚くんは優しいから。
きっと困って、笑って行けなくなる。

泣くな、私。
笑え。

「…理解ある彼女も、寂しいんだけど」
ぽつりと呟き、俯く私をぎゅっと抱きしめた。
「渚くん…?」
「今日は、ひめと一緒にいたかったんだもん」
声がちょっと不機嫌なのがわかる。
珍しい渚くんに、私は思わず笑ってしまった。
「…なんで笑うの」
「ふふ、なんでもない」
「言って」
「え、やだ」
「ダメ。言って」
「えぇ…」
「…拗ねちゃうよ?」

もう拗ねてるよって言ったら、きっともっと拗ねちゃうんだろう。

渚くんと付き合って、わかったことがある。

テレビのナギサくんは、爽やかスマイル好青年。
だけど、普段の渚くんはこうして頑固で、結構強引なのだ。

にっこり笑う顔はテレビで見るより甘いし、声だって違う。
むくれるし怒るし、拗ねたりもするし、表情豊か。
そんな渚くんに焦ったりもするけれど、私にしか見せない渚くんなんだって嬉しく思う私は、きっと重症。

「…なんかニヤニヤしてる」
「してないよぉ」
「ああ、もう、可愛いなぁ」
「渚くん…」

甘いキスが降るなか、ドアを叩く音は鳴り止まない。
「…お仕事」
「今日は休みって言われたよ」
「でも」
「マネージャーは優秀だから、きっともう断りを入れてると思う」
「なのに、まだ呼んでるよ…?」
「僕にはわかる。ドアを開けた瞬間にお説教」
「…じゃあ」
「うん、居留守を通すよ」

君との時間を邪魔されたくないんだ。
そう呟いて、軽々と私を抱き上げる。
行き先は、寝室。
「ドア閉めちゃえば、玄関からの音も聞こえない」
「うん…」
「むしろひめが僕だけを感じるようになれば、もっと気にならなくなるよ?」
「……えっち」
「あ、想像しちゃった?」
「…っ」

私の真っ赤になった顔を見て、クスクスと笑う渚くん。
私をベッドに優しく降ろすと、静かにドアを閉めて鍵をかける。

「何も考えられなくしてあげる」

ああ、なんて意地悪な笑顔。




私の彼は(一応)芸能人です。




(まだいるかな、マネージャー)
(謝るの?)
(ううん、僕たちがこの格好で出迎えたらどんな反応するかなって)
(え、えぇ!?)
(面白そうだと思わない?)


end



渚くんは彼女にはめちゃくちゃ甘えるんだと思う。

『私の彼は○○です』ネタをやろうとして
見事に断念。






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