愛すべき組長代理


「…ちっせぇなぁ」

正面に座るひめの肩を見つめて、俺は思わず呟いた。
代理とはいえ、こんな小さな肩に組が背負われてるんだと思うと、ため息をつかずにはいられない。
組員として、彼氏として、俺にできることはないだろうかと考える。
うーん、と唸りながらひめの顔に視線を戻すと、そこには誰から見ても怒っているような表情があって。

「…た、大我さん、ひどい!」

そう言うと、ひめはどすどすと音をたてて立ち去っていってしまった。
「……え…?」
呆気にとられ、追いかけることも忘れて立ち尽くす。
…怒らせた?
俺が?
なんで?
バタンと乱暴に戸を閉める音が聞こえたということは、あいつは部屋に籠ってしまったということだけど。

「…いやいやいやいや!」
ちょっと待て!
もう一回言うけど、なんで!
ハッと我に返り、ひめの部屋の前までダッシュ。
戸を開けようとしたら、しっかり鍵が掛けられていた。
「はぁぁ…?」
脱力したように呟く。
戸のすぐ傍にひめがいるような気配して、軽く叩いてみた。
「…開けてくれよ…」
しばらくの沈黙のあと、小さく「やだ」と返答される。
「なんでだよ…俺、何かしたのか?」
沈黙。
謝ろうにも、原因がわからないと謝るに謝れない。
どうしたもんかと困っていると、小さい答えが聞こえた。
聞き取れず、「え?」と聞き返す。
「わ、悪い…もう一回」

「………小さいって、言った」

本当に小さいのはお前の声だと言いたくなるような音量に、俺は戸に耳を近づけた。
小さい、って。
確かに言ったけど。
「そ、それで、怒ったのか?」
「…ため息も、ついた」
「うん?」
「うーんって、悩んだ」
ぽつぽつと落とすような小さな呟きに、俺は聞き逃さないように耳を戸に押しつける。
何が言いたいのかよくわからないけど、なんだかひめの声が震えてる気がして、顔が見たくてたまらなくなった。
「…まず、開けてくれ」
「……………」
「じゃないと、蹴倒す」
強行手段に出ざるをえないと判断した俺は、半分以上本気で呟く。
すると、ゆっくりと鍵の開く音がした。
しかし戸が開けられる気配はない。

「…開けるぞ」
戸を開いた先にいたのは、顔を真っ赤にして目に涙を溜めたひめだった。
「お、おい…!」
「ひどいよー……」
ぽろぽろと零れる涙に、思わず俺はひめを抱きしめる。
意味がわからなくて、でも泣いてほしくなくて、なだめようと優しくひめの頭を撫でた。
「な、泣くなよ…」
おろおろするばっかりで何もできない自分は、やっぱりこいつの力になんてなれないのかもしれない。
力しかない俺は、やっぱりダメなのか。
ぎゅうっと抱きしめながら、俺はもう一度ため息をついた。
「ま、また、ため息…」
「え?」
「そんなに、小さい…?」
濡れた瞳で見上げてくるひめに心が揺れる。
それと同時に、ふと疑問がよぎった。
肩が小さいと言っただけで、こんなに泣くのか?
泣くほどのことなのか?
「…た、大我さんは、大きい方が、好きなんですか…?」
「は?」
肩に大きいも小さいも…まぁ、あるけど。
でもお前は女なんだし、小さい方がいいじゃんか。
俺、別に肩にこだわりとかねーし…
「だ、大体の男の人は、大きい方が好きだって言うし…」
「……ちょっと待て」
その言い方は、あれだ。
肩っていうよりも、むしろ…
「…む、胸のことみたいに言うなよ…」
「………違うの?」
「えぇぇ?」
「………」
「………」
訪れる沈黙。
「…か、肩のこと、言った…」
ぽつりと呟くと、ひめの顔がみるみる赤くなっていく。
勘違いだったということにお互い気付き、俺は思わず噴き出した。
「わっ、笑わないでくださいよ!」
「だって…顔、赤すぎ…っ」
くくく、と堪えようとしても漏れてしまう笑いに、ひめは俺の胸を弱く叩く。
それすら愛しくて、無理矢理に笑いを引っ込めて、真っ赤な顔をしたひめをぎゅうっと抱きしめた。
「悪かったな、勘違いさせて」
「うー…」
「…お前の肩、俺の腕の中に収められるくらい小さいだろ。…なのに組長代理とか…やっぱりなんか大変なんじゃねーかなって思ったんだよ」
「大我さん…」
「かと言って…俺が直接お前にしてやれることも思いつかないっていうか…俺、力だけのやつだし…」
うーん、と低く唸ると、もぞもぞと腕の中から俺の顔を覗き込んできたひめと目が合う。

「今まで通り、傍にいて」

細い腕をめいっぱい伸ばし、俺の背中に回してきた。
俺を、抱きしめるみたいに。
「おじいちゃんが元気になるまで、私は組とみんなを守るから…だからね」
「…っ」
こっそり耳打ちされた言葉に、思わずひめを抱きしめる腕に力を込める。

『今まで通り、大我さんは私の傍にいて、私を守って』

そんなの、お願いされなくたって。

答えの代わりに、俺はひめの唇を優しく塞いだ。




愛すべき組長代理、
兼俺の恋人!




(心配しなくても、ソッチはそんなに小さくねぇぞ)
(なっ、何の話ですか!)
(照れんなって!何回も見てんだし)
(きゃー!もう喋らないでー!)
(そんなに気になるんなら、俺が大きくしてやるよ!)
(暗黙のルールってのも守ってください!)




初・大我さん。
彼は何もかもオープンです。
主人公が恥ずかしいと思ってることも平気で言っちゃう。
まぁそのあと怒られてへこむパターンですが。


20101108






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テーマ「人外ファンタジー」
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