言ってもいいのか


誰もいない放課後の教室。
自分の席に座って頬杖をつきつつ、ひめの席に視線を向ける。

「…何してんだ、俺」

小さく呟いた声は、誰に届くでもなく、セーターの袖に吸い込まれていった。



「あ」
「剛史?」
ガラガラと無遠慮に教室の扉を開け、剛史は真っ直ぐに自分の席へと向かう。
机の中に手を突っ込むと、一冊のノートを取り出した。
「あった」
「部活は?」
「終わった。課題出てたの思い出して取りに来ただけ」
「…そういや出てたっけな」
忘れてた、と自分の机の中を探り、目当てのノートを見つけだす。
ひめが来るまでに終わらせられるかと考えていたら、ガタンと前の席に剛史が座った。
ぱらぱらと手元にあるノートを捲りながら、剛史は呟く。
「ひめのこと待ってんの?」
「ん」
「ふぅん」
「なんだよ」
「別に」
視線をノートに向けたまま、短い言葉を剛史は続けた。
最後までノートを捲り終え、ゆっくりと立ち上がる。
「…不純とか」
「あ?」
「よくリュウ兄が言ってるけど」
「…」


「俺は、お前は純粋だと思う」


10年も、すごいと思う。

そう言って、いつもの仏頂面を少し崩し、目を細めた。
「今だって、待ってるし」
「…悪いかよ」
「そんなこと言ってない。じゃあな」
うっすらと浮かべていた笑みを消し、片手を挙げて剛史は教室を出ていった。

「…なんだ、あいつ」

頬杖をつき直し、ぽふ、とまた袖に口元を埋める。


…別に。
リュウ兄が言ってる不純ってのは、案外間違ってない。
好きなやつがいて、それが自分の彼女でってなったら、不純な考えを持たないなんて無理な話だ。

俺のことしか考えられなくなるようにしてやりたいし、いつだって傍にいて触れていたい。
浮かんでくるのは欲望ばっかり。

そりゃ不純にもなるだろ。

こっちは10年待ったんだ。


…まぁ、でも。

この気持ちだけは。

10年分の想いだけは。


「…一緒に帰るために、待つくらいだしな」




言ってもいいのか、

純粋だって。




(お待たせ、いっちゃん!)
(ん)
(待ち疲れちゃった?)
(別に)
(…待っててくれて、ありがとう)
(……今さらだ、バカ)


end



剛史くんは無口だけどみんなを見てるよ!


20110909






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