受け止めるよ


「…泣きそう」
いつもそうだ。
仕事をしてきたって言うと、あんたはいつも寂しそうな顔をする。

やっぱり、俺は仕事を辞めた方がいいのか。

「…違うの」
そう呟いて結局泣くあんたを、俺は抱きしめる。
どうすれば、あんたは泣かないでいてくれるんだろう。
仕事は辞めないでって言った。
でも、その俺の仕事があんたの涙の原因なら、俺は辞めたい。

「その顔、あんまり好きじゃない」
「…ごめんね」
「……違う」
本当は、どんなあんたも好きだけど。
どうせなら、笑って。
そう思うのに言えない。
泣かせてるのは、たぶん俺だ。
「…ごめん、志貴くん」
「なんで謝る」
「ごめん…っ」
「謝るな」
ぎゅ、と抱きしめる腕に力を込める。
俺が泣かせてる。
俺が謝らせている。
「………」
普段は大人しい胸が、痛いほどに締めつけられた。
「違うの、志貴くん」
子どもみたいに、顔をぐしゃぐしゃに歪めて俺の服を掴む。
「違うんだよ、志貴くん」
「…ん」

「私、いま、幸せで…嬉しいの…っ」

そこからは言葉にならず、声を押し殺すようにあんたは泣いた。
縋りつくように寄せられた身体は、俺の腕の中にすっぽりとおさまってしまうくらいに小さい。

幸せで、嬉しいんなら、あんたはどうして泣く?

こんなにも小さな肩を震わせて、なんであんたは泣いてるんだ。

「…俺が、」
ぽつりと、自分でもわかるくらいの震えた声で、俺は呟く。
「俺が、あんたを泣かせてる」
胸に顔を埋めたまま、あんたは首を横に振った。
「…俺は、あんたを幸せにできてる?」
今度はこくこくと首を縦に振る。
泣いてるくせに忙しいなと、俺は少し笑った。
そうしたら、涙でボロボロの顔で、あんたも笑った。

「志貴くんが笑ってくれたら、しあわせ」

それだけでいいのかと言うと、結構レアなんだけど、と唇を尖らせる。
吸い寄せられるように、俺はそこにキスをした。
「…な」
「恋人“らしい”こと」
「う…」
シャンプーのいい香りのする髪に顔を埋め、頭を撫でる。
すると、また俺の服を掴み、胸に顔を寄せた。
「ん…?」
「…幸せなの」
ぽつ、とくぐもった声で呟く。
「志貴くんが仕事をしてきたって言うたびに…私はズルをしちゃったんだって思うのに、それ以上に、幸せだって思っちゃうの」
「……泣く、くらいに?」
「うん。志貴くんの傍にいられて、こうして触れあっていられることが、すごく嬉しい」
「…そうか」

どこまでも、どこまでも。
他人のためにあんたは泣くのか。
きっと、これから先もずっと、あんたはこうして泣くんだろう。
死ぬはずだった自分が生き、幸せでいることに、後ろめたさを感じて。

幸せだと、笑いながら泣くんだろう。

「俺も、同罪」
「え…?」
「ズルをして、幸せになってる。あんたと」
額に、まぶたに、キスを落とす。
「…仕事は辞めない。それが、俺の罰」
「志貴くん…」
「幸せでいることが、あんたの罰」
鼻の頭に、頬に、キスをして。

「泣いたって、いいよ」

唇にしたキスは、不味い涙としあわせの味がした。




受け止めるよ、

涙さえも。




end



初・悪魔!
志貴!

黒髪でミステリアスで
依存型というのは
ストライク。

20110530






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