シュガー&スパイス


きみは何で出来てるのか。
考えるより先に体が動き、がぶりと彼女の肩に噛みついたら、普通に怒られた。

「お、怒るに決まってるじゃないですか!」
「ごめんごめん」
「理さん、絶対悪いと思ってないですよね!あーもう、歯形ついちゃってるじゃないですか…」
ベッドのサイドボードに置いてあった鏡を手に取り、それを見ながら俺のつけた痕を擦る。
あ、ちょっと不機嫌そう。
「よかったじゃない。切れてはないんだし」
「そういう問題じゃないですから…」
「ほら、俺のものっていう印ってことで」
「…なんですか、それ」
俺の言葉に顔を赤くし、ぷいっとそっぽを向く彼女が可愛くて、でも俺から顔を背けたことにイラッとして、今度は反対側の細い肩に歯を立てた。
「いっ……!」
「ん」
少しずつ力を込めていくと、歯が彼女の体に沈んでいくのがわかる。
それが痛みとして伝わり、腕の中に閉じ込めておいた彼女は、なす術もなく体を震わせていた。
謝罪の意味を込め、くっきりと残る歯形に舌を滑らせる。
すると、さっきとは違う震え。
心なしか、鼻にかかったような甘い声になっている気がした。
「あれ?…もしかして気持ちよくなっちゃった?」
「…ち、違います…!ちょっと、止めてください…!」
「赤くなっちゃって可哀想だから、手当てしてあげてるだけなんだけど」
「理さんが張本人なんですけどね!というか、それは手当てじゃないです!」
「でも、人間界には『唾つけとけば治る』って文化があるんだろ?」
「いつの人間界の話ですか…」
なんでそんな時代遅れな…、と彼女は呟き、俺のつけた歯形を手で隠す。
恨めしそうな顔で睨まれても、真っ赤な顔で涙目でなんて、逆にそそられるものなんだと教えてあげる他ない。
むしろ、俺の前でキャミソールにショートパンツ姿だなんて、ずいぶんと甘く見られたものだ。
可愛い顔して、することは本人でも気付いてないくらい刺激的だなんて。
「…なにそれ」
ふっと笑い、彼女を背中から抱きしめた。

「どうして、噛んだりしたんですか?」
「…きみは何で出来てるんだろうと思って」
ある意味、女を食べてきた俺だけど。
「本当の意味で、女を食べたことないから」
「…すごくひっかかる言い方ですね」
「今はきみだけだけど」
「ひっかかる言い方には変わりないですけどね…」
後ろからでも彼女が少し拗ねてしまったのがわかる。
ごめんねと謝れば、ぽつりと彼女は言った。

「…食べてみますか、私のこと」

「ん?」
「その…本当に」
くるっとこっちを向いた彼女は上目遣いで、ベッドの中でするには些か無防備な仕草だと言える。
頬まで赤く染めて。
…可愛いやつ。
「悪魔が人を食べるわけないでしょ」
「う…」
「噛んだだけであんなに痛がったくせに」
呆れたように言えば、自分の言ったことに改めて恥ずかしくなったのか、彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
頑なに頭を上げようとしないので、苛めすぎたなと彼女の頭を撫でる。
「…一大決心だったのに…」
「きみは存外死にたがりだよね」
「別に…そういうわけじゃないですけど」
拗ねたように彼女は言い、俺のシャツをきゅっと握った。


…読んだことがある。

“砂糖とスパイス。
あとは素敵なもの全部。
そういったもので女の子は出来ている。”

そのときは、なんだそれと思ったけど。
無邪気に俺に笑いかけたと思ったら、無意識に刺激的な格好で俺を誘うような真似をして。

俺なんかを受け入れてくれて。

俺は、きみに救われた。


「砂糖とスパイス。あとは素敵なもの全部」
「?何ですか、それ」
「女の子の原料だよ」
外国の本に載ってたと言えば、ふいに見上げてくる瞳。
その瞳に込められた小さな期待に応えるように、額に軽くキスを落とした。

女の子の原料。
それがきみのことだとしか思えない俺は、きっとどうかしてる。

それって、女の子が世界にきみしかいないみたいじゃないか。

きみと、出逢ってからは。

「…実際、そうだけど」
「さ、理さん…!」
「ん?」
「入ってます!て、手が…服に…!」
顔を真っ赤にして慌てる彼女に、思わず笑いが零れる。
そのまま彼女の肌に指を這わせながら、耳元で囁いた。


「好きな子にそうなるのは普通だろ?」


…きみ限定、だけどさ。




シュガー&スパイス




(ち、ちなみに…男の子はあるんですか?)
(カエルとカタツムリに、仔犬のしっぽ)
(…結構グロいんですね…)
(まぁ俺、男の子以前に悪魔だからね)
(…悪魔の原料もグロそうです)
(明日会社休む準備しとけよ?)


end



20110731






「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -