星に願いを


彼が笑うようになった。

でもその笑顔は、常に陰を背負っていて。

私は切なくなる。

それは、まるで。

何かを諦めてるみたいだから。


『もうすぐ死ぬかもしれない』

そう言ったあと、沖田さんはなんだかすっきりしたような顔をしていた。
背負っていた荷を降ろしたような、そんな顔。
そしてその後、私が問い詰めても、何もなかったようにはぐらかす。

冗談なのかと思ったけど、彼のたまにするおかしな咳が、私の考えを消していった。

「…ひめ?」
「えっ」
「変な顔、してる」
流星群が来るからと、屋根の上で肩を並べていた私たち。
つい考えてしまっていた不安要素が、知らない間に私の表情を変えていたらしい。
不思議そうに、沖田さんは私を見つめていた。
「…変じゃありません」
「そう?」
「元からこの顔ですから」
「ふぅん…」
クスクスと笑って、沖田さんは空を見上げた。
それにつられて、私も同じ空を見上げる。

星が流れて、流れる。

いくつも流れていく。

現れては、一瞬で消えて。

願いを唱える暇さえ与えてくれない。


流星は、意地悪だ。


「…あの子」
「え?」
空を見たまま、沖田さんはぼんやりと呟いた。
「元気かな」
「…たぶん」
彼が言うあの子とは、以前少しだけ一緒に過ごした捨て子のことだ。
母親が迎えに来て、笑顔で見送ったのを今でも鮮明に覚えている。
「可愛かったですよね」
「ふつう」
「…可愛かったんですね」
「……」
む、と彼がこちらを向いたのがわかる。
ふふ、と笑いながら視線を戻すと、怒ったような沖田さんではなく、真剣な表情の彼がいた。

「…僕、子どもはいらない」

優しく重ねられた手。

だけど、

小さく、震えていた。

「沖田さん…?」
「…残るもの、欲しくない」
「…え…」

その言い方は、まるで。

いなくなってしまうみたい。

残していってしまうのが、わかっているみたい。


『もうすぐ死ぬかもしれない』


薄く微笑み、今度は私の手をしっかりと握ってくれた沖田さん。
いつもなら、胸が高鳴るほど嬉しいのに。

今は、胸が締めつけられて、苦しい。

「沖田さ…」
「だけど」
私の言葉を遮り、真っ直ぐに見つめてくる。
もう、目をそらすことなんてできなかった。

「きみだけは、傍にいて」

彼の後ろに、一筋の星が流れる。

でも、それは一瞬で。

彼の頬に零れたものと、ひどく似ていた。


「きみがいてくれれば、他には何も要らない」


「……っ」

沖田さん。

それは、


命も、ですか?


諦めようと、しているの?

だからそんな風に笑うの?

いつの間にか、私の頬を涙が伝っていた。

「…きみのことも、置いてくと思う」
静かに、彼は呟く。

「でも…きみだけは、諦められない」

「おきた、さん…」
握られた手が痛い。
なのに、空いた手で私の涙を拭ってくれる彼は、ひどく優しい。

これは、彼のわがままだ。

諦めようとしているくせに。

私を諦められないからと。

私を置いていってしまうと、わかっていながら。


それでも彼は、私を求めた。


わがまま以外の何でもない。

勝手なこと言わないで。

置いていかれる方の身にもなって。


そう言いたいのに、喉が詰まって言葉が出ない。
文句も伝えたい言葉も、何も出てこなくて。
それでも伝えたくて、私は沖田さんを抱きしめた。
「…ひめ?」
「…っ」
「体勢、逆じゃない?」
彼の頭を胸に抱いたまま、首を横に振る。
「…そう」
ふんわりと背中に手を回され、大人しく私に抱かれる沖田さん。
胸が、締めつけられた。

「…わ、たしは」

振り絞るように、言葉を紡ぐ。

彼の腕に、力が込められた。

空を見上げる。

満天の星空。

「私は…」

流れていく星は、一瞬で消えてしまう。

3回も唱えられるわけないのに。

みんなが叶わぬ願いを唱えるから、星が逃げていく。


「ずっと…傍にいたいです」


それすら、叶わぬ願いですか?




星に願いを。




(時間が欲しい)
(未来が欲しい)
(きみが欲しい)
(貴方が欲しい)
(僕らは、だんだん)
(欲張りになっていく)


end



初・沖田さん!
どのゲームも沖田さんルートは
切なくなってますよね…

この恋愛ゲームの沖田さんは
黒髪無口な美少年で好きです。






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