いわゆるポッキーゲーム


久しぶりに訪れた彼の部屋。
まず目に飛び込んできたのは、今日という日にちなんだお菓子の箱の山だった。

「わー…!」
テーブルの上に広げられた様々なパッケージの箱に、私は思わず感嘆の声をあげる。
普通のチョコがかかったオーソドックスなものもあれば、期間限定のスイーツ風味のものもあるし、サラダ味やチーズ味のものも、それこそ多種多様。
つい頬を緩めると、隣からくすくすと笑う声が聞こえた。
「喜んでくれたみたいだね」
「あ…う、うん…!」
「今日会えるってわかった日から、いろいろ見つけるたびに買っちゃってさ。マネージャーにも呆れられちゃった」
ふふ、と笑いながらソファに腰を下ろした渚くんの隣に、遠慮がちに腰を下ろす。
すると、すかさずというかなんというか、渚くんの手が腰に回されて。
グッと抱き寄せられた。
「…会いたかった」
「渚くん…」
「自分でも楽しみにしすぎだなって思ったんだけどね」
「…わ、私も楽しみだった…」
「ふふ、本当?だったら嬉しい」
ふんわりと笑ってくれる渚くんに、胸がきゅんとする。
嬉しさに浸っていると、ふいに渚くんがテーブルに手を伸ばした。
「ね、どれから食べようか」
「えっ」
「少しずつ食べて全種類制覇しようよ」
「うん!」
どれにしようかと悩んでいると、感じる視線。
目を向ければ、膝に頬杖をついて、微笑みながら私を見つめる渚くんがいた。
「…どうしたの?」
「ううん、可愛いなって思ってただけ」
「…!」
さらりと言ってのける渚くんに、私の頬は赤く染められていく。
こそばゆい感覚に襲われた私は、そのまま視線を落とした。
「…顔、真っ赤だね?」
「だ、だって…!」
「ごめんごめん。…ほら」
近くにあった箱を手に取り、手際よく開けて袋を取り出す渚くんを見つめていると、ふんわりとした笑顔に出会う。
「一緒に食べよう?」

この笑顔に向かって素直に頷いてしまったことを、私は少しだけ後悔することになる。

「は…な、ぎさく…っ」
「まだ、だよ?」
もう無理だよ、という言葉さえ言わせてもらえないまま、続けて唇を塞がれた。
口の中に広がるのは…モンブラン風味のチョコの味。
もう幾つ味わったかわからないほどに、私のすべてが渚くんに溶かされていた。
「次はこれ」と私の口に先端をくわえさせると、渚くんは反対側から食べ進めてくる。
少し離れた顔がまた近づき、彼の唇はすんなりと私の唇を塞いだ。
感じた味はしょっぱいものだったのに、渚くんの唇は甘いまま。
ぺろりと舐めるのを合図にそっと離された口で、私は荒い呼吸を繰り返した。
「な…なんで、こんな…」
「言ったでしょ?一緒に食べようって」
にっこりと笑みを浮かべて答える渚くんに、私は何も言えなくなる。
そう、だけど。
一緒に、『同時に』味わうなんて思ってもみなかった。
それに、これは…
「これ、有名なゲームなんでしょう?」
「……知ってたの?」
「うん。合コンでやるゲームだって聞いたよ」
「…誰に…?」
ぼぅっとした頭でぼんやり聞き返すと、彼の手はまた違う味の袋に伸ばされた。
それを開け、取り出された1本を、私の口元に運ぶ。
抵抗を忘れた私の口は、従順にその先端をくわえた。
「本当は、口がつかないようにギリギリで離れるってことも聞いたんだ」
「ん…」
「でも僕、どうしてもくっついちゃうんだよね」
ふふ、と笑って、渚くんは端から食べ進める。
だけど、唇が触れあう直前で彼の顔が止まった。
「……っ」
「………」
そこにある渚くんの瞳はなんだか潤んでいて、熱っぽい視線は何かを訴えているように私を捉えている。

そんな目、ずるいよ。
そんなに見つめられたら。
「おいで」って言うように微笑まれたら。


キスしたく、なるじゃない。


噛みつくように、私は渚くんの唇を奪った。

「…ほらね」
「え?」
「ひめとは、やっぱりくっついちゃうみたい」




いわゆるポッキーゲーム。




(どれが一番美味しかった?)
(…わかんない…)
(だったらもう一回りしよっか)
(し、しない!)
(じゃあ、普通にキスしていい?)
(……うん)


end



渚くんがヤキモチ妬いたり
強引だったりケンカしたり

渚くん強化期間ですか!
っていうくらいに
打ちのめされました。


20101111






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