誰が思うか


「肩凝ったな…」
堅苦しい仕事を終え、星月学園に帰ってきた俺は、スーツのまま保健室へと足を向ける。
今朝置いてきた、月子と白衣を迎えに行くためだ。
せっかくの休日だというのに、ほとんど1日留守番させてしまった。
悪いことをしたなと思いつつ扉を開くと、そこには誰もいない。

月子と白衣が消えている。

「帰ってはない…よな」
いやまぁ、帰っていても仕方ないが。
白衣までいなくなるとは。もしかすると、へそを曲げた彼女がさらっていったのかもしれない。
「取りに行くか」
ぽつりと呟き、とりあえず彼女の携帯に電話をかける。
すると、機械音は保健室の奥の方から響いてきた。
「ひゃ」と小さく慌てるような声と同時に、耳に当てていた電話から、呼び出し音が途切れる。
『は、はい!』
「…いるのか?」
『あ…』
不自然に閉じられた奥のベッドのカーテン。
今日は放っておいてしまった俺も悪い。
だが、何度も何度も口をすっぱくして、俺がいない一人のときはベッドで寝るなとあれほど言ったのに、お前はまたか。
危機感が足りなすぎる。
電話を一方的に切り、彼女の元へと足を向けた。
カーテンの向こう側からは、小さな衣擦れの音。
やっぱり寝てたな、とため息をつき、いきおいよくカーテンを開ける。
「あれほど寝るなと…」
言っただろう、と続けようとした言葉は、目の前に立つ彼女の姿を見るなり引っ込んでしまった。

「…おかえりなさい」
「…ああ、ただいま」

出迎えてくれたのは、白衣を着た月子。

とりあえず、さらってはいないようだった。


ベッドに腰かけ、腕の中に白衣を着たままの月子を収める。
本人の要望により背中から。
色素の薄い髪の隙間から覗く耳はものすごく赤く、恥ずかしいのかと聞くと、彼女は顔を隠していっそう俯いてしまった。
「…そろそろ、顔を上げてくれないか」
「………」
「それじゃ、どこにもキスできないだろう」
そう言うと、小さな肩がピクリと反応する。
しばらくして身体の力が抜けたところを、ぎゅっと隙間なく抱き寄せた。
ちゅ、と音をたてて、真っ赤になっている耳にキスを落とす。
また強張る身体に、今度はつむじにキスを落とした。
「悪かったな、一人にして」
呟くと、小さく首を縦に振る月子。
「でも、いいんです。こうして帰ってきてくれたから」
抱きしめる腕に、彼女はそっと手を重ねる。
その様が愛しくて、さっきよりも強く抱きしめ、肩に顔を埋めた。
「…そういえば、なんで着てたんだ、これ」
「き、聞きますか?」
「聞かないわけにいかないだろう」
むしろ、見た瞬間に聞かなかったのが不思議なくらいだ。
逃がさないよう、抱きしめる腕は弱めない。
「…ちょっと、寂しかったから」
「ああ」
「これを着たら、少しは和らぐかなって」
寂しさが、とだんだん小さくなっていく声に、思わず吹き出してしまった。
「で、でも!着るのは最終手段だったんです…!」
「最終手段?」
「いろいろ…試した末の決断で…」
慌てたような言葉に、緩む頬は引き締まることを知らない。
「…必死だな」
「ひ、必死にもなりますよ、もう!」
くつくつと込み上げる笑いを堪えきれずにいると、ぐっと寄りかかってくる小さな身体。
覗きこめば、唇を尖らせ、少し拗ねたような顔。
「…面倒、ですか?」
「んん?」
「やっぱり私、子どもっぽいし…面倒かな、って」
「……いや?」
もぞもぞと髪をかき分け、うなじに唇を這わせる。
「こ、琥太郎さん?」

「そんな可愛い格好して」

愛しいな、と。

「…可愛いなと、思ってるよ」

こんなに、俺に対して必死になってくれるやつに、無理だろう。

面倒だ、なんて。




誰が思うか。




(はい、もしもし)
(水嶋!俺、オーラわかるかもしれない!)
(なんですか、いきなり…)
(さっき保健室に行こうと思ったら、入っちゃいけないオーラを感じてさ…)
(…それは、陽日先生が大人になったってことですよ)


end



直さんへ!

『星月先生とラブラブ話』
ということで…
こうなりました!

気に入っていただけたら嬉しいです。

20110710




「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -