本当は


「ぎゅってしていいですか?」

なんて珍しく甘えた声で言ってきたもんだから、「ん」と承諾してやったのが間違いだった。

「…おい」
「なんですか?」
「何してんだ」
腰にまわされた腕に力を込められ、逃げられないようにガッチリ固定される。
「ちょ…おまえ…!」
胡座をかいた足の上に乗り、俺の足を跨ぐようにして座った。
後ろから抱きつかれるかと思ったら、正面から来るとか。
「…どんな甘え方だよ」
「こんなです」
ぎゅうっと抱きしめられたかと思ったら、首筋にやわらかい感触。
それはひとつじゃなくて、いくつもいくつも落とされる。
「な、何してんだよ…!」
体を後ろに反らしても、抱きつかれている状態ではこいつもついてくるに決まっていた。
俺から離れまいとするように、さっきよりもぎゅっと抱きしめてくる。
「重いですか?」
「超重い」
「………」
「…嘘。軽い」
ぽんぽんと背中を軽く叩くと、体を少し離し、俺の顔を覗きこんできた。
偶然なのか策略なのか、上目遣いで。

「…こういうの、嫌ですか?」

甘えた声は継続中で、俺の鼓膜とか、心臓とかをくすぐってきて。
自分でも顔が熱くなってることがわかって、俺はこいつの肩に顔を埋める。
可愛いとか、絶対言わねー。
「…なんなの、今日のお前」
「甘えたいモードです」
「心臓に悪ぃんだけど」
「…ふふ」
笑ってんじゃねーよと言おうとしたのに、またこいつにぎゅっと抱きしめられ、俺は言葉を封じられた。

「綺麗ですね、イルカ」
ぽつりと呟かれた言葉に、俺は視線をこいつの向こう側へと移す。
パソコンには、青い海の中を、仲良く寄り添って泳ぐイルカ達の動画が流れていた。
「…お前、見れてねーし」
「さっき見てました」
「………」

別にそんなに悲しいってものでもねーけど、思い出さないわけじゃない。
でも、無意識にこういうのを見てるってことは、俺は求めてるってことなのか。
…よく、わかんね。

だけど、ぎゅうっと抱きしめてくるこいつには、何かが伝わったのかもなと思う。

見透かされてんのな、お前に。




本当は

甘えてーのは、俺。




(…ベッド行くぞ)
(えっ!)
(この体勢、キツい)
(…もう少し、このままがいいな)
(……もうなんなの、今日のお前…)


end



京さんへ

『怪盗の拓斗のお話で
内容は甘で、主人公が可愛すぎてタジタジみたいな感じで!出来たら男性視点で』
ということだったのですが…
こうなってしまいました…!

リクエストありがとうございました!


20110704




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