ユーアーマイン


完全な八つ当たりだった。
眠気とかがもう限界で、何を言ったかはっきりとは覚えてない。
…ただ、酷いことを言った気は、する。
勢いよく飛び出していったあいつが、戻ってこなかったのがいい証拠だ。
すぐに戻ってくるだろうと思ったのに、いくら待っても帰ってこなくて。
携帯にかけても出ず、それもそのはずで、着信音はすぐ近くのベッドから聞こえていた。
「…マジか」
普段はあまり使うことのない足を動かし、あいつが行きそうな場所を探し回る。
息が切れるくらいに走ることなんて最近なかったなと頭の端で考えながら、汗が吹き出してきた頃、ようやくカフェの中にいるあいつを見つけた。


「待てよ」
店の中に入り、あいつの元に行こうと歩き出そうとした瞬間、後ろから強く肩を掴まれた。
振り向いた先にいたのは、俺を鋭く睨む戸越達郎。
「……な」
「帰れ」
「は?…なんでお前にそんなこと言われなきゃなんねーんだよ」
「あいつのこと泣かしといて、なんでノコノコ来れるんだよ!」
「…うるせーな」
ノコノコなんて来てねーよ、と戸越達郎の手を振り切り、あいつの元へ向かう。
言い合っていた声が聞こえたのか、驚いたような顔でこっちを見ていた。
「帰るぞ」
「え、た、拓斗さん…?」
状況が飲み込めてない様子のこいつの手を取り、立ち上がらせる。
引き摺るようにして店を出ると、すぐに後ろに引っ張られる感覚。
チッと舌打ちをして振り返ると、そこには予想できた人物が、こいつの反対側の手を掴んでいた。
「達郎…?」
「…離せ」
「離さない」
「離せっつってんだ」
「離せるわけないだろ!お前のせいで泣いてたんだからな!」
「た、達郎…!」
「………」

…そんなことわかってる。
俺のせいで泣いてたんだってことくらい。
お前なんかに言われなくたって、こいつの今の顔を見れば、嫌でもわかるんだよ。

「…だから、だ」
「は?」
こいつの手を掴む戸越達郎の腕に拳を振り上げる。
殴られると悟ったのか、パッと手を離した一瞬の隙に、俺はこいつを抱きしめた。
「な、にす…っ!」
「拓斗さん…!」
「こいつを泣かしていいの、俺だけだから」
…本当は、泣かせないのが一番だけど。
もし泣くんなら、理由は全部俺であってほしい。
笑顔の理由だって、困る原因だって、全部俺であればいい。

全部が俺じゃなきゃ、嫌だ。

だから。

「慰めんのも、全部俺なんだよ」

呆然と立ち尽くす戸越達郎を睨み付け、背を向ける。
「つ、次はないからな!」と捨て台詞のように言った戸越達郎の言葉に、俺はこいつの手を握る手に力を込め、歩調を速めた。

「…拓斗さん」
「謝んなよ」
ぴしゃりと言い放つと、グッと押し黙る。
本当に謝るつもりだったらしい。
なのに、ちらりと視線を向ければ、目を真っ赤にして怒ったような顔をしていた。
「…なんで、戸越といたんだよ」
「偶然会ったんです」
返事がいつになく棘々しい。
なんだよ、ムカつく。
「これからは、偶然でもあいつに頼んな」
「…」
「あいつなんかの前で泣くな」
泣かしたのは自分だけど。
…本当に言いたいことは、一言で。
なのに言えない。
タイミングを逃したってのもあるし、むしろ、もういーかと思う自分もいる。
戸越達郎のせいで俺もイラついたわけだし。

だな、と完結させようとすると、ぐいっと強く手を引っ張られる。
「…あ?」
「ごめんなさい!」
振り返ると、変わらずの怒った顔。
「…だから、謝るなって言っ」
「いいえ、達郎の前で泣いちゃったことに対しては謝ります!」
さっき言ったじゃないですか、と拗ねたように言った。
「だから、次は拓斗さんの番ですよ!」
「は?」
「このまま、家に帰りたくありません」
じゃあどうすんだよと言う前に、ぐにっと頬をつままれる。

「謝ったら、許してあげます」

お前のくせに上から目線なのかとか、ほっぺ痛ぇよとか、言いたいことはいっぱいあったけど。

ああ今か、と思った。

「…酷いこと言って、ごめん」

ぽつりと言えば、こいつはつり上げていた眉を下げ、ふわりと笑う。
「…自己完結させないでください」
「……悪い」
「仲直り、たっくん」
「………ん」
道端だとか関係なく、こいつの唇にキスを落とした。

自分は1回で、この俺には2回も謝らせるとか、マジどんだけだ、この女。
こんな風に、強引に謝らせて仲直りする女なんて、そうそういねー。

だけど、そんなお前から離れられない自分がいることもわかってる。
離せもしねー自分がいることも。

「…家で慰めてやるから、覚悟しろよ」
「………え」




ユーアーマイン。

アイムユアーズ。




(つーか汗かいた。レアだぞ、こんな俺)
(走って捜してくれたんですか?)
(やっぱあれだな。携帯じゃなくて、体に直接埋め込むか、GPS)
(こ、怖い冗談言わないでくださいよ!)
(まぁ、ちょっと冗談)
(本気の方が多いんですか…?)


end



ゆうさんへ。

怪盗X恋の予告状
『拓斗vs達郎の拓斗オチ』ということで…
こんな風になりました。
長くなってしまってすみません…

気に入っていただけたら嬉しいです。
リクエストありがとうございました!


20110612




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