小悪魔降臨


時は放課後、場所は屋上。

「鍵、閉めとこうね」
「…え?」

不適に笑う目の前の彼は、いつもの彼とは違った。


お互い生徒会とGフェスという立場から、あんまり2人でいられる時間はない。
だから、そういう時間はすごく大事にしたい。
いつもなら、手を繋いでにっこり笑って、じゃあ帰ろっか、なんて流れになる。

無邪気に笑う葉月先輩が好き。

でも、物足りないなっていう気持ちも、ないわけじゃなかった。

もっと一緒にいたい。
強引に奪ってほしい。

だけど、そう思うだけで、実際に口にしたりしない。
言ったら、彼に嫌われてしまうかもしれない。

今はこの距離がいいのだと、なんとなく思っていた。

が。


「もー限界」

「…え?」
「手繋いで一緒に帰るだけって、中学生じゃん。そりゃ俺いま何してんだろって思うよ」
「え、え?」
私を閉じ込めるように壁に手をつき、葉月先輩は私を見つめた。
声がいつもより低い。

その場から動けない私の心臓は、いつもと違う先輩に、鼓動を速めた。

「清い交際を、なんて京一に散々言われてたけど、俺には無理」
に、と笑う先輩は、ゆっくりと私の頬に手を伸ばす。
近づいてくる先輩の視線は、私の唇に注がれていた。
自然と次に来るものを予想し、目を閉じる。

なのに、待っていた感触はいつまで経っても来ない。

不審に思って目を開けると、目の前にはさっきと同じ笑顔の葉月先輩が、鼻がぶつかるくらいの近さで止まっていた。
「え…」
頬に熱が集まるのがわかる。
期待してしまっていた自分に気づき、居たたまれなくなって顔を背けようとしても、先輩の手がそれを許してくれなかった。
に、と笑みが深くなる。
「ねぇ」
「は…」
呼吸がうまくできない。
間近で見つめられることが、こんなにも緊張するなんて知らなかった。

「期待、した?」

低い声が耳をくすぐる。
どくん、と全身が脈打った。
「ね、教えて。期待した?」
「……っ」
「教えてくれたら、続きしてあげる」

甘い誘惑に、私の思考は完全にストップする。

嫌われてしまうと考えていた私も、どこかに行ってしまった。

「キス、されると思った?」
「……」

小さく頷き、彼を見つめる。
満足そうに微笑む先輩は、優しく私の髪を撫でてくれた。

「期待したんだ?」
小さく頷く。
「嫌じゃないの?」
小さく頷く。

「キス、されたい?」

小さく、頷いた。

「俺もキスしたい」

そう呟いて、葉月先輩は私の唇を奪う。
食べられてしまいそうなくらい、強引なキス。
足がふらつき、先輩の制服を掴むと、支えるように抱きしめられる。
それでも初めての感覚に、私は夢中で先輩のキスに応えた。


どれくらいの時間が経ったのか、唇が離されたときには、すっかり陽が暮れかけていた。
私は抱きしめられたまま、先輩に体を預けている。
「…嫌じゃなかった?」
「……はい」
「そっか…じゃあ」
優しく髪を撫で、顎に指をかけて顔を持ち上げられる。
今度は、触れるだけのキス。

「これからは、覚悟して」

耳の奥まで響く甘い声に、咄嗟に声がでない。

にやりと笑う葉月先輩の顔が、ふといつもの無邪気な笑顔に戻る。

「じゃあ、帰ろっか」
「…は、い」

繋がれた手は優しいのに、私の胸の疼きは全身に広がっていった。

そう。

振り回されてる、と思った時には、私はすでに彼にはまっていて。

それが嬉しくて。


私はその時、彼の正体に気づいたのです。




小悪魔降臨



(あ、京一だ)
(こ、校内で手を繋ぐなんて不純だ!)
(羨ましいの?)
(そういうことを言ってるんじゃない!)
(そういうことばっかり言ってるから、幸人にうっとおしがられるんだよ)
(………え…)


end



小悪魔葉月。
たまに直江先輩を
刺してるといい。


丸さんへ

リクエストありがとうございました
遅くなって申しわけありません…

こんなものが出来上がりました…
気に入っていただければ幸いです

20100517




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