今日はこのまま


まただ、と我に返って思う。

しっかりと繋いだ手。
無意識に絡まる指。

求めたのは、たぶん──





「拓斗さん」
「…ん…」
「拓斗さーん」
「………」
「…起きてるでしょう」
「寝てる」
「………」

ふわりと髪を撫でられ、感触は髪から瞼、頬へと移動していく。
細い指に急かされるように目を開ければ、こいつは上目遣いで俺を見つめていた。
「………」
寝起きの奴になんつー衝撃だと思いながらも眠気には勝てず、また目が閉じそうになる。

「…寝ちゃダメ」
「………」
「無視もダメです」
「…んー」

その声は、反則だ。
こいつ特有の甘ったるい声に、いつだって俺は翻弄されてる。
外でだって、俺を宥めようとしてんのかもしれないけど、大体が逆効果。
それが無自覚だってんだから質が悪い。

そんなこいつを放っておけば、変な奴らがこぞって言い寄ってくる。

エリート官僚然り。
現役消防士然り。
芸大生然り。
居酒屋店長然り。

幼なじみ、然り。

まぁ前の4人は俺の反応を見て楽しんでるだけだからいいとして、幼なじみはたぶん本気だ。
考えてるだけで気分が悪くなる。
俺の知らないこいつを知ってると思うと。

…不安に、なる。

自然と力がこもった右手が、何かをふにゃりと握った。
布団の中に入れたまま感触を確かめ、心の中でああと呟く。
こいつは俺を起こすのを諦めたのか、俺に手を握られたまま、そこらへんにあった雑誌を読み始めた。


まただ、と我に返って思う。

しっかりと繋いだ手。
無意識に絡まる指。

求めたのは、たぶん俺だ。


緩む口許を隠しながら、隣にいるこいつの横顔を眺める。

手、握ったまんまだけど。

お前には、違和感ないってこと?

…これが普通で、自然?


「…ふーん」
「あ、起きた」
雑誌から俺へと視線を移し、おはようございます、と笑う。

…平然としやがって。

お前いま、下着姿だからな。
寝起きだから髪ボサついてるし。
すっぴんだし。

「油断しすぎ」
「拓斗さんが手、離してくれないから」
「じゃあお前から離せば」
「………」
「…なんだよ」


…離れたくなかったんだもん。


ぽつりと呟かれた言葉は、とんでもない破壊力で俺を撃ち抜いた。
もうダメだ、と枕に顔を埋める。

なんだって、こいつはこう…

「拓斗さん?」
「…ん」
「たーくーとーさーん」
「なんだよ」
「顔上げてくださいよ」
「やだ」

声だけで、こいつが笑ってるのがわかる。
確信犯だ、こいつ。
調子乗んな、と繋いでる手に力を込めると、くすくすと笑う声と共に握り返された。

見つめられてる気がして、顔を上げる。

「…拓斗さんのせいですよ?」
「は?」
「これです」

ふにゃりと困ったように、それでも少し嬉しそうにはにかみながら、俺と繋いだ手を目の前に掲げた。

「今は、繋いでないと不自然っていうか」
「………」
「拓斗さんといるんだなって、実感できて、安心しちゃって」

吸い寄せられるように、顔が近づいていく。
何をされるか悟ったのか、こいつは素直に目を閉じて俺の唇を迎えた。

ふに、と形を変えた唇が小さく笑みを溢す。
なんだよ、と鼻を擦り付ければ、繋いでいた手がまたぎゅっと握られた。

「…離さないでくださいね」
「は?」
「私、この手がないと、ダメみたいです」
「……あっそ」


…離してやるかよ。


そう思いながら、俺は幸せそうに笑うこいつの手を握り返した。




今日はこのまま。

ずっと、でもいーけど。




end


モコさんへ。
大変お待たせしてしまい、すみませんでした!

『彼目線のお話でヒロインちゃんが可愛くて好きで好きで仕方がない怪盗のたっくんか吉祥寺のいっちゃん』
とのことでしたので、
たっくんを選ばせていただきました。

ご期待に添えられているかどうか…
リクエスト、ありがとうございました!


20120401




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