ぎゅってして


「…ん」

おいでと言わんばかりに少しだけ広げられた両腕に、私は自然と吸い込まれていった。

机に腰掛けたままの幸人先輩に抱きしめられ、いつもは彼の胸元に埋まる顔は、今日はぴったりと彼の肩にはまる。
彼の腕に優しく包まれて、私も先輩の制服の裾を握った。
すり、と私の髪に頬擦りしてきた先輩は、きっと言ったら怒られちゃうかもしれないけど、可愛い。
私も控えめに頬擦りし返すと、抱きしめられる腕に力がこめられる。

今日の幸人先輩は、私を甘やかしてくれるみたいだ。


ここが生徒会室だとか、もうすぐ完全下校の時間だとか、今は気にならない。
幸人先輩の腕の中のあたたかさが、全部忘れさせてしまう。
裾を掴んでいた手を先輩の背中にまわすと、隙間がなくなるくらいに抱き寄せられて、服の上からでも幸人先輩の体温が伝わってきた。
思わず「あったかい」と呟くと、耳元で小さな笑い声が響いてくる。
「暑いじゃないのか」
「あったかい、です」
「…そうか」
安心したように呟き、彼は私の髪に顔を埋めた。


「…なぜだか」
ぽつりと幸人先輩は耳元で囁く。
「こうしたくなった」
「え?」
「いつもより、もっと…」
ちゅ、と耳にやわらかい感触。
「ひゃ…!」
吐息が耳をくすぐり、私は大きく首を竦める。
ぎゅう、と腕の中に閉じ込められ、離れようとしても幸人先輩はそれを許してくれない。
「ゆ、幸人先輩…?」
「………」
無言のまま私を抱きしめ続け、そしてすぐパッと身体を離す。
さっきは、離してくれなかったのに。

「これ以上は…だめだ」
「え?」
「…いろいろ、我慢できそうにない」
ふ、と薄く笑った幸人先輩の瞳に出会う。
唇に触れた感触は、いつも通りやわらかくて、優しい。

もう、帰らなきゃいけない?

「お願いです」
「………」
「…あの、」

下校時間を知らせるチャイム。

だけど、

「もう少し、だけ」




ぎゅってして。




end


キリ番11500を踏んでくださった
名無しさんへ!

『幸人先輩とラブラブ』ということで
終始くっついてるだけですが…

気に入っていただけたら嬉しいです!


20110727




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