僕たちは、ずっと一緒だ。
今までも、これからも、ずっと。

そうだろう?



「おはよ」
「    」
毎朝、僕らはこうして向かい合い、朝の挨拶をする。

彼女、優奈は5年前に声を無くした。
両親の事故を目の前で目撃し、ショックで声が出なくなり、今もその延長でいる。

その事故の直後から、当時高校生だった僕らは2人暮らしを始めた。
それが出来るだけの資金が、残されていたから。

反対する人間はいない。
僕は内心、少し嬉しかった。

「いただきます!」
優奈が用意してくれた朝食を、顔の前に手を合わせて挨拶をし、優奈の笑顔を見てから食べ始める。
それが僕の朝の日課。
この幸せな生活が続けられるなら、僕は何だってするんだろう。
優奈が傍にいてくれるなら、他には何も要らない。

毎朝そう思うのも、僕の日課だ。



「おはよ」
「    」
「おはよー!」
彼女は優奈の友人のマナミ。
優奈の声のことも気にせず普通に接してくれる人間の1人だ。
「おはよう、おふたりさん」
そしてコイツ、無遠慮にも僕の肩に腕を置きつつ挨拶してきた男は、仮にも僕の友人である。
「おはよ、康明」
「    」
「今日は1限間に合ったんだねー」
「な、珍しい」
「ふたりとも俺をなんだと…優奈ちゃん、こいつら俺に対してひどくない?」
「          」
「日頃の行いのせいだよって」
「…味方なんていないんだな、俺には」
がっくりと肩を落とす康明を見て、優奈は声を出さずに笑った。
優奈の笑顔は、僕を幸せにする。

優奈は僕のすべてだ。



だけど、最近気付いたことがある。
康明の優奈を見つめる瞳が、僕と同じだ。
そして、優奈も隠しているようだけど、僕に向ける瞳と康明に向けるものとが違ってきている。

だけど、僕は怖くて、知らないふりをした。



「…あの、さ」
「ん?」
久しぶりに康明と2人で昼ごはんを食べていると、康明は真剣な表情を俺に向けた。
「お前、気付いてるよな」
嫌な予感がして、一気に身体中の血液が冷えたような感覚に陥る。
心臓だけが、チリチリと焼けたように熱い。
「…何に?」
「俺が、優奈ちゃんを好きなこと」
蓋をしていた真実が露になり、僕は言葉を失う。
「ごめん。俺、今日、告白する」
真っ直ぐに僕を見つめる康明の瞳に、迷いはなかった。
「…でも、優奈は…」

僕の、だから。

「…声なんて関係ない。言わなかったら後悔すると思うんだ。だから…言わせてくれ」
僕に向かって頭を下げる康明を、僕は止めることなんて出来なかった。



その日、僕はいつも一緒に帰る優奈を残し、一足早く家に帰った。
そのままソファに寝転がり、優奈の帰りをただ待つ。
嫌な想像ばかりが頭の中を巡り、眠ろうとしても、目を閉じれば見たくない光景が浮かんでくる。
電気も点けず、真っ暗な部屋の中で、時間はゆっくりと過ぎていった。



それから、どれくらい経ったのかわからない。
鞄に入れっぱなしのままだった携帯が鳴り、僕はやっと体を動かした。

メールの受信を知らせる画面。
差出人は、康明。

同時に、玄関の方から扉の開く音がして、優奈が帰ってきたことを知らせる。
「…おかえり」
「    」
電気も点けずにいたことに驚きつつも、優奈の頬には赤みが帯びている。
僕は何故だか酷く落ち着いた様子で、康明からのメールを開いた。

付き合うことになった。
ごめん。
大事にするから。

浮かれてもない、ただただ誠実な言葉。
返信もせず、僕は無意識にそのメールを削除した。

「…優奈」

愛してるよ。
狂いそうなほどに愛しくて。
壊したいくらい、愛してる。

それなのに。

「……どうして?」

ぷつん、と僕の中で、何かが切れた音。
次の瞬間、僕はキッチンに行き、ナイフを手に取った。

「     !」
「僕がいればいいって、言ったじゃないか」

声が出せない優奈は、怯えたように顔をひきつらせ、僕を見つめている。

「僕しか要らないって、言ったのに」

優しい笑みを浮かべながら、僕は優奈に近づいていく。
力任せに優奈を床に倒し、馬乗りの体勢のまま、優奈の胸に向かってナイフを振り下ろした。

優奈の胸に咲いた真っ赤な花に、僕は優しく口付ける。

「…優奈は、僕だけのものなんだから」

そして、僕も同じ場所に。
躊躇いもなく、刃を突き刺した。



優奈は誰にも渡さない。

僕たちは、ずっと一緒だ。
今までも、これからも、ずっと。

そうだろう?






血の繋がった、双子なんだから。



end


20110824





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テーマ「人外ファンタジー」
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