Strawberry candy


「アメちょーだい」

昨日の席替えから隣の席になったアオイくんが、私に掌を見せて言った。
みんなの人気者の彼が隣の席になったことで、普段は目立つことのない私には、こうして話しかけられることさえ緊張してしまう。
「…どーぞ」
私はなるべく周りに会話を聞かれないように、自習時間にも関わらず小声でアメを渡す。
「どーも!」
彼も一緒に、小声で話してくれた。
「ストロベリー好きなの?」
「…うん」
渡したアメを頬張りながら、アオイくんは聞いてきた。同時に、ボリボリという音が聞こえてくる。
「…噛んじゃうんだ」
思わず笑ってしまったが、クラスの女の子たちからの視線を感じて、すぐに顔を戻した。
「…アメが可哀想」
「んじゃもう1個ちょーだい。次は噛まないようにするから」
「…アメ噛んじゃう人って」
「欲求不満なんでしょ?確かに当たってなくはないね」
ケケケ、といたずらっ子みたいに笑って、また私に掌を見せた。
「俺好きだよ、イチゴ」

アメを心底羨ましく思った。

この日から、私は毎日アオイくんにアメをあげていた。というか、毎日催促されるので、私も用意して学校に行っていた。
決まってストロベリー。
アオイくんにどうして人気が集まるのか、この何日かでわかった気がした。
私みたいな子にも、屈託のない笑顔を向けてくれて、普通に話しかけてくれる。

そんなアオイくんに、私はいつの間にか惹かれていた。

「アンタ、いい気になってんじゃないよ」
5、6人の女の子に呼び出され、私は今、胸ぐらを掴まれている。
「アオイは優しいから、アンタみたいな根暗なヤツにも話しかけてくれてんだからね」
「これ以上アオイに近付かないで、ウザいから」
彼女たちの冷たい瞳の前に、私はただ頷くことしか出来なかった。

次の日から私はアメを持ってくるのをやめた。
そして、アオイくんが話しかけてくれても、すぐに話を終わらせていた。

避けてるとか、思われてるかな。きっと嫌われちゃったよね。

せっかく好きになったのに…

「アメちょーだい」

いつもの声。
いつものトーン。
アオイくんの声だった。
「持って…ない」
アオイくんの顔も見ずに、私は言った。
「アオイ!アメならあたしら持ってるよ!こっちおいでよ」
「そうそう!その子といるとアオイまで暗くなっちゃうしぃ」
キャハハ、とかん高い笑い声が聞こえてきて、私はうつ向きながら言った。
「…あの人たちの、言う通りだと思う…私なんかに話しかけてちゃダメだよ…」
自分で言って、涙が出てくるくらいに悲しくなった。
だけど、これでよかったんだとも思う。
いっそ、嫌われるくらいが諦めるのにちょうどいい。

「お前らのアメなんかいらねーんだよ!」

教室が、一瞬にして静まりかえる。
そして私に振り返った。
「本当に持ってないの?」
黙って頷くと、アオイくんは私の腕を掴んで教室を出ていった。
「あ、アオイくん…戻った方がいいよ…っ。本当に…あの人たちの言う通りだと思うもん…」
「後ろ、乗って」
いつの間にか駐輪場に着いていて、アオイくんのだと思われる自転車を持っていた。
言われるがままに後ろに乗り、彼は自転車を漕ぎだした。
「俺言ったじゃん、イチゴ好きだって」
「…え?」
「なんで持っててくんないの?最近冷たかったし、迷惑だった?」
「そんなこと…っ」
あるわけ、ない。
好きだけど。
だけど、私といたら…
いきなり自転車が止まる。コンビニの前だった。アオイくんは1人で入っていき、すぐに出てくると、私にストロベリー味のアメを差し出した。
「アメちょーだい」
いつもの声。
いつものトーン。
アオイくんの声だ。
「…どーぞ」
「俺、大好きだよ」
「…これ?」
「ううん」











相原イチゴさんのこと。





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