早く起きた朝は


ふと目を覚ますと、私に背を向けて、ベッドの端に腰かける瞬くんの姿があった。
何も身につけてない上半身は、背中からでも充分、彼が男の子から男性へと変化を遂げたことを示している。
なんだか急に甘えたくなった私は、自然と瞬くんに背中から抱きついていた。


「…おはよう、ひめちゃん」
「おはよう、瞬くん」
慌てることなく、甘く響く声で返された挨拶に、私はさっきよりも強く彼を抱きしめる。
私の着る服越しに伝わる瞬くんの熱。
その熱をもっと感じたくて、私は思わず彼の肌に頬を寄せた。
「ふふ…ひめちゃんは今日も甘えんぼだ」
「…今日も?」
「昨夜も、甘えんぼだったよ?」
昨夜も、という言葉を強調しながら、瞬くんは含んだような笑みを私に向ける。
その瞳があまりにも優しくて、恥ずかしさを感じながらも、彼に抱く愛しさが勝利した。

顔だけで振り向いて、ちゅ、と私の頬にキスを落とす。
そしてまた前を向き、目を閉じた瞬くんの頬に、自分からキスを返した。
2人で迎える朝特有の甘い時間が、私の羞恥心を薄れさせていく。

「…ないと思った」
「何が?」
「僕の上着。ひめちゃんが着てた」
瞬くんの体にまわした腕を解き、自分の着ている服を見下ろした。
指先がちょこんと出るくらいに長い袖に、裾は私の太ももまで隠してくれている。
素材もサイズも、私のものではなくて。

「…し、瞬くんが着せてくれたくせに…」
昨夜のことを思いだし、頬が熱を持ったのがわかる。
「そうだったね。昨夜は向こうで脱がせちゃったんだもんね」
くすくすと笑う瞬くんが指差す方に視線を向ければ、私のパジャマが無造作に床に広がっていた。

…下着だけは、かろうじて着けてる。

それだけちらりと確認し、にこにこと微笑む瞬くんの頬に人差し指を緩く刺した。
「…もう。恥ずかしいよ」
「ふふ。可愛い」
ぎゅ、と抱きついてきた瞬くんの勢いを受け止めきれず、ぽすんと2人でベッドに雪崩れ込む。

優しく唇が塞がれ、私は自然と瞬くんの背中に腕をまわした。
おはようのキスなんかじゃない、昨夜の甘い時間を呼び戻すみたいな情熱的なキスに、私の意識はいっぺんに持っていかれてしまう。
「…まだ早いし、もう少し寝てよっか」
耳元で囁かれる魅力的な誘い。
その応えとして、引き寄せられるように、瞬くんの頬にキスをした。

愛しそうに目を細め、私の顔中にキスを降らせる。
額に、頬に、鼻の頭に。
止めどなく与えられる優しい感触に、私の意識はだんだんと薄れていく。
「2人でこうして抱き合って寝るのも、好きだけど」
「うん…」
瞬くんの大きくて繊細な絵を生み出す手が、するりと私の頬を撫でた。
ちゃんと聞いてるよ。
眠りに堕ちる寸前の私は、彼の手を弱々しく握り返すことしか出来ない。

「でもね。ひめちゃんや僕に似た子と一緒に寝たら、もっと幸せだと思うんだ」

「……ん」

…今は、2人がいいけど。

私を抱きしめる瞬くんが囁いた未来計画に、ぱちりと私の目が開かれる。

「…それ、って」

「おやすみ、ひめちゃん」




早く起きた朝は、

仲良く二度寝。




(…2人に来てもらったのは他でもないんだ)
(なんなの、改まって)
(どうしたんだよ、バカ兄貴)
(……伯父と姪って結婚できるのかな)
(おい、早くあいつらどっか避難させろ!)
(…この人、ニューヨークに永住させよう)


end



大人瞬くんは常にフェロモンを漂わせていると思う。
弟恐るべし。


20110922







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