名前を呼べば


あなたの名前は、私たちの軌跡。


「修一お兄ちゃん」

これは始まりの名前。
この名前が、緊張しっぱなしだった私をどれだけ安心させてくれたことか。
きっと今までで、一番多く呼んだ名前だと思う。

「修一先生」

学校で呼んだ、くすぐったい呼び名。
家で呼ぶと、少し困ったような顔をしたけど、私はこの呼び方も好き。

「修ちゃん」

恋人になれたあと、お兄ちゃん以外の呼び名は少し恥ずかしくて、でもすごく嬉しかったのを覚えてる。
恥ずかしがって、あまり呼べてなかったけど、私だけしか呼ばない大切な呼び方。

「…修一」

これは、特別。
一番多く呼んだと言えるようになりたいと思う。
今はまだ恥ずかしいけど、これから慣れて、いつかはそう呼ぶことが普通になったらいい。

だから私は、こうして密かに練習するのだ。

「しゅ、う、い、ち」

「はい?」
ふ、と顔に陰がかかる。
目の前には、私が名前を呼びながら思い浮かべた人がいて。
「……え」
「あれ。今、呼ばなかった?」
「よ、呼びました、けど…」
聞かれてた、なんて。
今だ慣れない呼び方に、頬に熱が集まるのがわかる。
何が恥ずかしいって、練習を聞かれてしまったことが恥ずかしい。
くすくすと笑いながら私の隣に腰掛けてくる修一お兄ちゃんには、全部お見通しみたい。

…じゃ、なくて。
修一、でした。

「練習?」
「…そう、練習」
恥ずかしがって俯く私の髪をふわりと撫でる彼の指が、頬を伝って顎にかかる。
くい、と上を向かされれば、嬉しそうな笑顔。
「練習なら、本人に向かって呼んでみたらどうかな?」
「…そ、」
れができないから練習してるのに!と反論しようとした言葉は、彼によってかき消されてしまった。

優しくて、でも強引な彼の唇に、一瞬にして意識が持っていかれる。

「…ほら、呼んでごらん」
口元で囁かれる言葉が、私の唇に魔法をかける。
不思議。
さっきまで、すごく恥ずかしかったのに、今は呼びたくてたまらない。

とても大切な、あなたの名前。

「…修一先生」
「え、それ?」
「修ちゃん」
「ん」
「修一お兄ちゃん」
「はい」

「……修一」

やわらかい笑顔とともに、包まれる私の身体。
あったかくて、優しくて、これからもここは私だけの場所なんだと思うと、嬉しくなる。
背中にまわした手に力を込めると、同じように返ってくる反応。

「修一」
「ん?」
「修一」
「はい」
「しゅう、いち」
「うん」

好き。
大好き。

あなたの名前を呼ぶたびに溢れてくる想いを、どうすればいいんだろう。

ねぇ、伝わるかな。

愛してるって。

わかってくれるかな。




名前を呼べば。




(お兄ちゃんはまだいいですが)
(ん?)
(先生だと、禁断な感じがしますね)
(…禁断…放課後の…)
(僕らは夫婦だけどね)
(あ、知ってるんだ…)


end



修一!
同居人久しぶり!
最後の
分かる人は分かりますよね

ヒロインはなかなか
呼び方が直らないなぁ
と思いつつ

幸せならいいのかな。
と思ったり


20110316







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