きみの全部をください


きみは、突然現れたお姫さまだった。

ある日、幼なじみである双子に『妹ができた』と告げられた。
なんとなく嬉しそうにきみのことを話す2人を見て、興味が湧いて。

『…西園寺ひめです』

きみの笑顔を見た瞬間、俺は恋に落ちたんだ。

前途多難な恋だったな。
きみを守る人間はたくさんいたし、双子を筆頭に、きみに近づこうとするものなら何かと睨まれたっけ。

きみと話すために、あの頃の俺は必死だった。

身分の違いに潰されそうで、諦めなきゃいけないのかと思ったときだってあった。
それなのに今こうして寄り添っていられるのは、きみが少しだけ手を差しのべてくれていたから。

きみが、諦めないでいてくれたから。

あの双子は、きっと兄弟の誰よりもきみを好きだった。
妹としてじゃなく、ひとりの女の子として。

それなのに、奪ってしまった。

でも、きみが諦めないでいてくれたように、俺も諦められなかったんだ。

2人には謝らない。
本当は謝りたい。

だけど、あいつらが望んでるのは、謝罪の言葉なんかじゃなく。

「…巧くん」


目の前にいるきみを、幸せにすること。


「…おはよ」
「おはよう」
目を開けると、愛しい人が俺の腕の中で微睡んでいた。
2人で迎える初めての朝。
窓から差し込む光を浴びて、眩しそうに顔を背ける。
もぞもぞと背中を向けられてしまい、なんだか離れられてしまった気がして、後ろからぎゅっと抱きしめた。
「んー…」
「こら、離れないで」
髪から覗く真っ赤な耳も見ないふり、彼女の髪に顔を埋める。
俺のシャツが大きいのか、襟から出てしまっている肩に思わず口づけた。
「ゃ…」
「そっち向いて俺から逃げたおしおき」
「だって、まぶし…」
「わかってる」
いつもと違う彼女の香りに、ああ俺ってこんな匂いなんだなと胸が音をたてて揺れる。

このまま溶け合って、ひとつになれたらいい。
離れる日なんて来なければいい。

そのためには、どうしようか。

「…どうしよう、巧くん」
「へ?」
つい口にしていたのかと思ったが、振り向いた彼女の顔を見る限り、違う話題のようだった。
真っ赤な顔で、困惑したように下がった眉尻。
「どうしたの?」
「…朝帰りになっちゃった。私、西園寺の人なのに…」
「…」
「みんなに迷惑かけちゃうかな…」
「……」

困るきみを前に、心の中でごめんねと謝る。
喜んでる自分がいるから。
だって、そんなに困る理由があったっていうのに、きみは俺を求めてくれたってことでしょう?

ねぇ、どうしよう。

「…あの、さ」
「……巧くん?」
「…」

…言っても、いいのかな。

次第に早くなる鼓動に気づかれないように、少し彼女と距離をとる。
真っ直ぐ見つめてくる瞳に、胸がざわついた。

俺は、あの双子よりきみを幸せにできるだろうか。

「…きみを、幸せにしたい」
「……うん」
「俺なんかが、できるかわからないけど…」

双子の顔が思い浮かぶ。

彼らは何でも持っていた。

だから、きみを幸せにできるものを、俺が持ってないものを、持っているかもしれない。

それでも、俺は。

きみが言ってくれた言葉を、信じたいから。

きみを信じたいから。

「…巧くんは」
「大丈夫。覚えてるよ」
「…」
「俺は俺、だからね」
何も言わずにきみは頷く。
朝陽の差すきみの額に、そっと唇を押しつけた。

いつだって、きみは背中を押してくれる。

「…俺にしかできない方法が、きっとあるよね」
「うん…あるよ、絶対」
「……ありがとう」
どこまでわかってるのかな。
こんな空気だし、もう伝わってるかもしれない。

だけど、言わせて。


「…俺に」




きみの全部をください。




(…巧は彼女と住める僕たちが羨ましいなんて言ってたけど)
(現実としては、あいつのが有利だったんだよな)
(ああ。僕らが持ってないものを、最初から持ってた)
(俺も“蒼井”がよかったなー)
(まぁ、今言うことじゃないけどね)
(ハイハイ、式に集中しますよ)


end



巧くんは完璧だ!

17歳が“ちゃん”付け
なかなか出来ません

20100824







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