きみに出逢うため


僕が生まれてきたことに、たいして意味なんかないと思っていた。


『瞬くん、でかけちゃったんだ』
「うん、学校に泊まりがけで課題だって。明日には戻るって言ってたけど」
傾きかけた夕陽が差し込む部屋で、彼女とのいつもの電話。
そわそわとでかけていったシュンのことを話題にすると、嬉しそうな声が返ってくる。

『ふふ』
「ん?なに?」
『ハリスくん、寂しそう』
「なっ!そんなことないよ!」
『そう?寂しくない?』
「…別に…」
『…ふぅん?』
「もういいでしょ!それより…」

ビ───!

きみは次はいつ来るの、と聞こうとしたときに、来客を知らせるブザーが鳴り響いた。
「ごめん、ちょっと待って。誰か来たみたい」
『ハリスくん』
受話器を耳にあてたまま、入り口のドアを開ける。

『「…来ちゃった」』

そこに立っていたのは、電話から聞こえてくる声の主だった。


「会いたかったの」
そう言って笑った彼女は、可愛すぎて困る。
次に会ったら伝えようと思っていた言葉も、急すぎて全部忘れてしまった。
「…どうしてくれるんだ」
「え?」
「嬉しすぎて、言葉がない」
ぎゅう、と抱きしめると、小さな手が背中にまわされる。
僕の方が明らかに背は大きいのに、なんだか彼女に包まれているようだった。

「…ごめん、限界」
「え?」
目を丸くする彼女を抱きあげ、そのまま部屋へ直行する。
「ハ、ハリスくん!?」
ベッドに下ろし、小さな唇にたくさんのキス。
だんだんと深く、彼女の甘い声が部屋に響いた。
とろんと潤んだ彼女の瞳は、完全に僕を誘っている。

「今すぐきみが欲しい」

甘い甘い彼女の声は、ヴァイオリンの音色よりきれいだ。


「…日付、変わっちゃった?」
月明かりの射し込む部屋で、彼女が呟く。
「んー…ああ、さっき」
「わ。ちょっと待ってて」
独特の余韻に浸っていたのに、ふいに彼女が僕のシャツを着て、部屋を出ていってしまう。
「……」
急になくなったぬくもりに、寂しさを感じずにはいられない。
しばらくしても戻ってこないので、そこにあったジーンズを履き、彼女の後を追いかけた。


「…え?」

テーブルには、小さなケーキ。

ロウソクに灯る炎。

彼女のきらめく笑顔。


「誕生日、おめでとう」


一瞬、誰のかと聞こうとしてしまった。

いまの状況で、僕のでしかないのに。

「………ありがとう」

驚きながらも呟くと、彼女はさっきよりももっと嬉しそうに微笑む。
そして、立ちすくむ僕をぎゅうと抱きしめ、背中をポンポンと叩いた。


大好き、と呟く彼女に、今までにないくらいの愛しさが湧いてくる。


「………っ」


知らなかった。

誕生日が、こんなにも。

嬉しくて、

泣きそうなくらいに、

幸せなものだったなんて。


「…ありがとう」
「2回目、だよ?」
「何回でも言いたいんだよ」
「ふふ。……ありがとう」
「?なんできみが…」
向かい合わせた顔には、やわらかい微笑みがあって。


「…生まれてきてくれて、ありがとう」


…ねぇ。

僕が生まれてきたわけを。


今なら、言える気がするよ。




きみに出逢うため。




(日本のブンカでしょ、それ)
(どれ?)
(恋人のシャツ一枚でいるってやつ)
(ち、違っ!)
(萌えるのは世界共通だね)
(…国籍イギリスだよね?)


end



ハリスくん
誕生日おめでとう!

3年後は
すごくいい男







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