素敵な肩書きに


結婚したって、特に変わることはないと思っていた。

苗字は彼女がうちに来たときから同じだったし、前から一緒に住んでもいた(はじめは同じ家で兄妹として過ごしていたんだから当然)。

僕が大学時代に一人暮らしをしていたときも、彼女はよく泊まりに来ていたし、2人で一緒に暮らすことも、さして特別なことではないと思う。

僕の気持ちにも、たいして変わりはないように思えた。

変わったこと、と言えば。

「…これくらい、かな」

彼女と僕の薬指に光る、同じデザインの指輪を眺めて呟く。

「ん?」
「なんでもないよ」
「…変な雅季くん」
そうは言いつつも、にやけた表情が彼女の顔に貼り付いていた。
式を挙げて、一緒に暮らすようになってから、気付けばこの顔だ。

変わったことに、彼女の顔も加えた方がいいくらい。

「…変わらないな、と思って」
「へ?」
「普通は結婚したら、苗字が変わったりするじゃない」
「そうだね」
「でも僕らは西園寺のままだし、2人でこうして暮らすのだって、大学時代に少し経験してるし、あんまり変わったことはないよね」
「…そうかなぁ」

首を傾げた彼女が愛しくて、肩に手を回し、引き寄せる。
そのまま髪を撫でると、彼女が僕を抱きしめた。
「結構、変わったと思うよ」
「どこが?」
「雅季くんの目でしょ」
「…目って」
「それと、手つきでしょ」
「ふぅん…?」
「あとは、肩書き?」
「肩書き?」

言われてから、ああと気付く。

くっついていた体を少し離し、キラキラとした瞳で僕を見上げてくる彼女。


「雅季くんは」

きみは。

「私の旦那さんだもん」


僕の奥さん。


「目も優しいの」
「…そ?」
「手も優しい」
「そうかな」
クスクスと笑いながら、彼女の髪を優しく撫でる。
すると、「ほら」と微笑みが返ってきた。

「…敵わないな」
「それは私。雅季くんには勝てる気がしないもん」
「勝とうとはしてるんだ?」
「…一応」
彼女の笑顔が零れるたびに、幸せな時間が僕らを包む。
「きっと、僕はきみに一生敵わないと思うよ」
「どうして?」
「さぁね」
「もぉ。それ、逆じゃない?」

そうやって頬を膨らませて拗ねたような顔も好きだよ。
泣きそうなくらいに困った顔も、怒った顔も。
花が咲いたような笑顔も。
全部、好き。

でも、面と向かって言うには明るすぎるから。

今は、これだけ。

「ありがとう」

やわらかな唇に、挨拶を。

これからも、よろしく。

ありがとう。

輝かしい変化に。




素敵な肩書きに。




(で、いつ雅季って呼んでくれるの?)
(い、いつって…)
(子どもが不思議に思うでしょ)
(子ども!?)
(とりあえず、今日の夜は絶対呼ばせるから)
(…やっぱり、敵わないのは私じゃないかなぁ…?)


end



雅季くんは結婚したら
実家に戻るんですかね
独立希望!







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