愛と安らぎ


進みたいと、思った。


西園寺家次期当主の裕次お兄ちゃんは、いろいろなことを経験し吸収しようとしている。
その姿に、3年前のやわらかさはない。

雅季くんは脚本家を目指し始めた。
雅弥くんは海外のチームから声がかかるほどに成長した。
夢に向かい始めた彼らの姿に迷いはない。

たまに来る手紙から窺える瞬くんにも、3年前の幼さはもうない。

みんな、変わる。

変わっていく。


「修ちゃんも、変わったね」

仕事をする彼の背中に向かって呟いた。
「…どうしたの、いきなり」
「いきなり思ったの」
ごろんと修ちゃんのベッドに転がり、毛布にくるまる。
椅子を回転させこちらを向いた彼の手には、ペンが握られていた。
「…仕事の邪魔、してる?」
「してはないけど」
「けど?」
「気になったかな、その言葉は」
んー、と座ったまま背伸びをし、ペンを机に置いて立ち上がった修ちゃんがベッドの端に座る。
「僕は変わった?」
「うん」
ギシ、とベッドを軋ませ、私に覆い被さり、ほっぺたにキスをくれた。

「…僕は珍しいと思うんだけど」
ふ、といたずらっ子みたいな笑みを浮かべたと思うと、彼は私の横に寝転がった。
「珍しい?」
「西園寺の中で、僕はいたって普通だし」
「瞬くんを捜すために、警視総監に連絡しちゃう人が?」
「…でも他の兄弟みたいに、特に目立つところもない。何ら変わりなく過ごしてきたつもりだよ」
「…変わったよ、修ちゃんも」
「そう?」
「私なんか、追いつけない」
そう呟くと、ふふ、と笑って私の頭を優しく撫でた。
「…どうしたの?」
修ちゃんの言葉から、優しさが溢れてくる。
そのあたたかさに、自然と零れていく。
「…私だけ」
「ん?」
「私だけ、変わってない」
無意識に、修ちゃんの服を掴む。
「私だけが、前に進めてないの」

みんな、変わる。

変わっていく。

募る不安。

焦燥感。

どうすればいいの。

変わりたいのに。

ぎゅう、と抱きしめてくれる腕の中で、彼の胸に縋りつく。

私は、あなたに。

ふさわしい人になりたいの。

あなたの恋人なんだと。

胸を張れる人でありたいのに。

「…気付いてないの?」
ぽつりと呟いた声に、私は顔を上げた。
そこには、ほんのり赤らんだ修ちゃんの優しい顔。
すべてを包み込んでくれる笑み。
「きみだって、日々成長してる」
「…私が?」
「ああ。初めてこの家に来たときの面影が、もうほとんどないくらいにね」
「…そんなこと」
「だから、僕も変わらざるをえない。僕が変わったのだとしたら、きみのせいだ」
ふわりと微笑んで、彼は私の頬を包む。
「それに、きみをずっと見てきたからわかる。きみはちゃんと変わってるよ」
「修ちゃん…」
自然と触れ合う唇。


「僕の、最高の恋人だ」


切なげな表情で私に触れる修ちゃんのすべてが愛しい。
「…今の私でも?」
「もちろん」
「私、変わったかな」
「僕が信じられない?」
「…ううん」
もうひとつ、優しい口づけ。

「きみが好きだよ」

とろけるほどの甘い声に、とびっきりの優しい笑顔。
「…でも」
「え?」
「変わらなくていいことも、あると思うんだけど」
「…なぁに?」
ふ、と微笑む修ちゃんの顔は、夜に見せる大人の男の人の顔。
潤んだ熱っぽい瞳で見つめられると、体の奥が熱くなった。

「きみだけを想う、この気持ち」

どちらからともなく触れ合う唇は、お互いを求め合うように深くなっていく。


「愛してる」


私の心を満たしてくれる、彼の言葉。

昔も今も変わらずに。

私に、くれる。




愛と安らぎ。




(…変わったところといえば)
(え?)
(大きくなったね)
(…どこ見て言ってるの?)
(大人に変えたのは僕かな)
(い、言い方がやらしい!)


end



修一が…
一番…
難しいんじゃないだろうか…







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テーマ「人外ファンタジー」
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