きみは王子様


血の繋がりっていうのは、やっぱり大事なんだと思い知らされる。

世襲なんてよく聞くけど、それは本当の血の繋がりがあるからこそ喜ばれたりするのだろう。
俺の場合は違う。
何かひとつでも間違えば、ここぞとばかりに責め立てられる。
それも表立ってではなく、陰で。

だから混血はだめなんだ、と。

「…そんなこと、俺が一番わかってる」
呟いて、薄明かりの灯る西園寺家の扉を開く。
ほとんどの人間が寝静まっている時間なのに、要さんはいつものように俺を待っていてくれた。
「お帰りなさいませ、裕次さま」
「ただいま、要さん」
「随分と会議が長引いてしまったのですね」
「まぁね…あ、あのさ」
「お嬢様なら、お部屋でお待ちになられてますよ」
「…ありがとう」

完璧な執事に笑顔を向け、自分の部屋へと向かう。
こんな時間だ、彼女はもう寝ているだろう。
なのに、足を早めずにはいられなかった。

早く会いたい。
顔が見たい。

抱きしめて。
キスをして。

彼女の隣で眠るんだ。

静かに部屋のドアを開け、後ろ手で音をたてないように閉める。
静寂に耳を澄ませると、微かに人の気配があった。
暗い中、ルームランプを点けていきながら、ベッドへと足を向ける。
小さな寝息をたて、彼女は眠っていた。

愛しい、と自然に零れた言葉は、きっと彼女以外に使うことはないんだろう。
さっきまでの黒い感情がどこかに行ってしまったかのように、俺の口許は緩む。
ジャケットを脱いでから、シワになるのも構わずそのまま彼女の隣に潜り込んだ。
やわらかい彼女を、壊れないように優しく包み込む。

俺のお姫様。

お眠りですか。

耳元で囁いてみる。
彼女はくすぐったそうに身を捩っただけで、目は覚まさない。
無邪気に眠る恋人の髪に口づけ、そのまま意識を手放した。


いつからだったか。
きっと、今でもそう。

修一兄さんの瞳に憧れた。
雅季と雅弥の外見に憧れた。
瞬くんの綺麗な黒髪に憧れた。

俺にないものばっかり。

だけど。

一番に、憧れたものは。


「裕次お兄ちゃん…」

あたたかいものに包まれている感覚。
ぼんやりと目を開け、やわらかい感触に顔を埋めた。
「ふふ、くすぐったいよ」
「…やわらかい。気持ちいい…」
「もう、えっち」
微睡みながら、もう一度グリグリと胸に顔を埋める。
包まれている感覚は、彼女の腕が俺の頭を抱きしめていたからだと気付いた。
優しく髪を撫でてくれる彼女を見上げると、そこにはふんわりとした笑顔。
「大丈夫だよ」
ぎゅう、と抱きしめられて、額にやわらかい唇の感触。
「…わかるもの」
「…?」

「裕次なら、大丈夫」

微笑む彼女の指が、俺の目尻を拭う。
「…俺、泣いて…?」
「裕次」
甘い声が俺を呼ぶ。
言ってもいいよって、言ってくれてるようで。

言葉が、零れていく。

「…俺…俺ね…」
「うん」
「憧れて…みんなに…」
「うん」
「…血が。みんな…西園寺、で」
「うん」
「俺だけ、違う、のに…俺はこれから…西園寺を、背負おうとしてる…」

すごく、こわい。

だって俺は。

大事なものを、持ってない。

「俺は、血が…っ」
「それでも」
ぎゅう、と彼女に包まれる。

いつもは俺が包み込んで。

彼女が、泣かないように。

苦しい思いをしないように。


「私が、こうして守るから」


守ってると、思っていた。

いつの間にか。

俺が、きみに。


「…守られて、いたんだね」


いつもと逆だけど。

それでも、いいかな。




きみは王子様。




(明日、午後からなんだ)
(本当?)
(うん。ちょっと無理して片付けてきたから)
(じゃあゆっくり出来るんだね)
(そう、ゆっくり出来るの)
(……意味、違う?)


end



裕次はメンタルが人一倍弱い。
んじゃないだろうか。







「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -