愛しい人


羊くんとの電話は嫌いだった。
話してる間は幸せな気持ちに包まれたけど、切ったあと、ものすごく寂しくなって。
急に、世界に私ひとりにされたような気がしてたから。


「…これを言ったら、きみは怒るかもしれないけど」

シーツに流れる私の髪を優しく撫でながら、耳元で囁くように羊くんは言った。

「僕は、きみとの電話が、あまり好きじゃなかった」

今さらごめんね、と羊くんは呟く。

「電話をしてる間は、きみを感じることができて、幸せなんだけど」

うとうとと微睡んでいる私には、言葉を返すことができない。
わたしもそうだったの、って言いたいのに。

「切ったあとに、すごく寂しくなるんだ。きみとの世界と、急に遮断されてしまったみたいで」

同じことを考えてたなんて、不思議。
でも、嬉しいな。
羊くんの言葉に答えるように、私は力を振り絞って羊くんの手を握った。

「ふふ、寝ぼけてるの?」

可愛い、という言葉と共に、額に落ちる優しい感触。
恥ずかしいと言う代わりに、私は羊くんの胸に顔を埋める。

「もう少しきみを見ていたかったけど…僕も眠たくなっちゃった」

羊くんの腕に包まれて、感じるのは安心感。
ぎゅっと強く抱きしめられれば、それはもう『おやすみ』の合図。

「…でも、今は電話は嫌いじゃないよ。だって、電話を切ったって、きみと僕の世界は繋がってる」

この指輪でね、と言いながら、左手に感じるのは羊くんの唇の感触。

「…おやすみ、月子」

羊くんのその言葉を聞いて、私はすとんと眠りの世界に落ちていった。

私も、起きたら伝えなくちゃ。
電話するの、好きって。
今の羊くんからの電話は、一時の寂しさを埋めるためじゃなくて、もうすぐ帰るからねって言ってくれてるのと同じだから。

でも今は、少しだけ。
羊くんのぬくもりだけを感じて。
ベッドの中、ふたりだけの世界で。

おやすみなさい。




愛しい人。




(…おはよう、羊くん)
(………つきこ)
(“ふふ、寝ぼけてるの?”)
(……あれ)
(今日も電話、待ってるね)
(…うん、待ってて)


end



スタスカメインキャラ
これで全員です…!

20110613






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