不治を誓って


「ほら、ついてるぞ」

口の端に手を伸ばして軽く拭ってやると、ぷっと軽く頬を膨らませる月子。
幸せな昼休みには、あんまり似つかわしくない顔。
でもまぁ、そんな顔も可愛いと思ってしまう俺は、きっと恋人としては正常だ。
付き合い始めてから3年以上経った今も、気持ちが色褪せることはない。

「…オカン」
「なんだよ、いきなり」
「錫也、オカン」
「何言ってんだよ…」
小さくため息をつき、さっき月子の口を拭った指をぺろりと舐める。
「一応、恋人扱いなんだけど?」
「う…」
「ふ、真っ赤」
「もう…!」
堪えきれずに笑うと、本格的に頬を膨らませてそっぽを向かれてしまった。
本気で怒ってるわけじゃないんだろうけど、そっぽを向かれるのは悲しいし寂しい。
そんなときは、月子の長い髪を指ですくいあげて、毛先にキスをする。

「こっち向いて、お姫様」

そう言うと、月子は真っ赤な顔で「錫也はずるい」と呟くのだ。
それは、「もう怒ってない」のサインだったりする。


「夜久さん」

声のした方を振り返ると、見たことのない男が手を上げながら近づいてきていた。
「次の講義、休講らしいよ。掲示板じゃなくて、教室の黒板に書いてあった」
「そうなの?ありがとう!」
「いやいや。じゃ、それだけだから」
彼と目が合い、小さく笑って会釈をされる。
俺はいつもの笑顔を作り、「どうも」と返した。
月子が俺の知らない男と、たった少し言葉を交わしていただけなのに、真っ黒な気持ちが沸き上がる。

彼氏の余裕を、見せられただろうか。

「錫也?」
「…今の、誰?」
「同じクラスの人だよ。次の講義が必修で同じだから、教えてくれたみたい」
「そう」
「…ふふ、ヤキモチだ」
「…わかってるなら、笑わないの」
「はーい」

情けないな、と思う。
いい加減、直すべきなんだ。
このヤキモチ妬きも、独占病も。
こんな小さなことでいちいち妬いていたら、きっと月子は疲れてしまう。

わかっている、のに。

「でも、錫也はそのままでいてね」
「……え?」
「そのまま、ヤキモチ妬きで独占病の錫也でいて」

ぎゅっと握られた手から、ぬくもりが伝わる。
月子はきょろきょろと周りを確認してから、頬に触れるだけのキスをくれた。
その一連の動作が終わっても、俺は固まったまま。
月子がくれた言葉の意味を考えて、理解して、やっとできたことと言えば、月子の手を強く握り返すことだけだった。
「錫也?」
「…一生、直らないかもしれないぞ」
自分の頬が熱くなっていくのがわかる。
「それこそ、一生このまま…」
いつもと逆だなんて頭の中で冷静に思いながら、それでもやっぱり声が震えていた。

「そうしたら私、一生錫也に愛してもらえるんだね」

そう笑った月子の顔が、ものすごく可愛くて。
泣きそうになるのを堪えながら、俺は月子の手の甲にキスを落とす。

なぁ、月子。
そんなこと言われたら、俺ずっと重病人でいるかもしれない。
月子と一緒にいる限り、きっと一生治らないと思う。

「というか…一生、治さない」

俺はもう一度、月子の手の甲にキスをした。




不治を誓って。




(おい小熊。あいつらをどうにかしてこい)
(そうだそうだ!食堂でいちゃつくなと言ってこい!)
(な、なんで僕なんですか…!)
(白鳥の心を抉っていくような光景だな…)
(ふふ、東月くんたちは相変わらず仲が良いね)
(…あんたたち、いつもそうやって見てるの?)


end



やっぱり
夏組も好きなんです

錫也は
月子と一緒にならなかったら
一生独身なんじゃないかと

20110423






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