受けてたとうじゃないか


「七海」

不意に呼ばれた名前に振り返れば、仏頂面の弓道部(元)副部長が立っていた。
「…宮地?」
たまに月子を見に弓道部へ顔を出すので、名前と顔くらいは知っている。
しかし、いわゆる人見知りな俺は、こいつと会話を繋げ、盛り上げるということはできない。
なんとなくだけど、こいつも同じ感じがするから、何も言わずに宮地が俺の傍まで近付いてくるのを待った。

「夜久を知らないか?」
いきなり出てきた幼馴染みの名前。
星座科のやつが天文科に来る理由なんてそうそうあるわけじゃない。
だからなんとなく勘づいてはいたけれど、いざそうなるとかなり面白くない。
さっきより幾分か低い声で、俺は呟く。
「…なんで」
「今日は部長会議があるから、先に部活を始めておいてくれと言いに来たんだが」
「ただの連絡?」
「ああ。…伝言、頼んでいいか」
「…ああ」
「すまないな」

こいつも素直じゃないんだろうな、と思う。
きっと月子に会いたかったはずだ。
星座科からわざわざ来たのに、いくら連絡事項があったとしても、無駄足には変わりないだろう。
それを微塵も感じさせずにいようとするこいつは強い。
宮地があいつに会えなかったことでほっとしてる俺は、ものすごく小さく思える。

「む」
廊下の窓から外を見て、宮地は呟いた。
「…夜久」
「は?月子?」
宮地の言葉に、俺も視線を窓の外へ移す。
月子が中庭を走って横切っているところだった。
ちらりと宮地の顔を見る。
外へ視線を向けたまま、その先には月子。
いつもの仏頂面じゃない、優しそうな顔。
月子がさせてるんだと思うと、なんだか切なくなった。

俺たちの中だけじゃなくて、あいつは部活にも係にも委員会にも居場所がある。
それぞれの中で月子は存在して、それぞれに影響を与えてる。
宮地に限らず、関わっている人間全員に。
きっと俺たち幼馴染みに見せたことのないような表情だってしてるんだろう。

それが、なんだか。

「寂しい、な」

ぽつりと呟いたのは、他の誰でもない宮地だった。
「夜久は委員会も保健係もある。きっと大変なのに、そう言わない」
「…?」

「自分の知らないあいつがいたら、寂しくもなるよな」

そう言って、宮地は薄く笑った。
眉間に皺を寄せて、顔を真っ赤にして。
「…皺が寄ってる、とよく言われるんだが」
自分の眉間を指差す。

「お前と重ねられてるのかもしれないな」

言葉の意味がわかった瞬間、俺はいきおいよく眉間を隠した。
「な、な、なんだよっ!」
「痕が残るらしいぞ」
「よ、余計なお世話だ!」
夜久が言ったんだ、と笑う宮地。
部活を見に行ったときは、まったく笑わないやつだなと思ったけど。

月子は、こいつも変えたんだな。

「…言っとくけどな」
「む?」
「部活でしか見らんねぇ月子もいるだろうけど、幼馴染みにしか見せない月子もあるんだからな!」
「…ああ」
「だから!…ま、負けねぇ、から」
そこまで言い、真っ赤になった顔を隠すようにそっぽを向いた。
こんな恥ずかしいこと言っておいて、真正面で向き合えるほど俺は人間が出来てない。

これは宣戦布告だ。

ふ、と宮地の笑い声が聞こえる。
「…笑ってんじゃねぇ」
「ああ、すまない」
「言った意味、わかってんだろうな」
「…大丈夫だ」



受けてたとうじゃないか。



(あれ、ふたりで何話してるの?)
(つ、月子!)
(っ夜久!)
(…なんか慌ててる?)
((な、なんでもない!!))


end



哉太語りなのでこちらに。
このふたりは不器用キャラ。






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