My sweet pussycat
「えっと…」
何が、なんだか。
この状況。
「……ただいま?」
不意打ちされるのは、苦手なんだけど。
「………」
「………」
自分の部屋なのに、なんとなく居づらさを感じるのは、同じく居づらそうに正面に正座している月子のせいだろう。
真っ赤な顔を隠すように俯いているお陰か、さっきから気になって仕方ない“違和感”が俺の目の前に晒されていた。
「…俺、これに突っ込んでいいのか?」
「むしろ早く突っ込んでほしかったよ…!」
もう、と言いながら、膝立ちになってぽこぽこと肩を叩いてくる月子を、いつも通り可愛いなと思うことで平静を取り戻す。
隙を突いて月子の両手を捕らえ、まじまじとその“違和感”を見つめた。
落ち着いて見れるようになってきた。
うん、似合ってる。
相変わらず可愛いな。
「す、錫也…」
「ん?」
「全部声に出てる…!」
さっきよりも真っ赤になった顔を隠すにも隠せないのか、見ていて心配になるくらいに首を背けている。
そんなことすると、首ががら空きなんだってこと、前に教えてあげなかったかな。
「月子」
「ひゃ…!」
捕えた手を引っ張り、腕の中に閉じ込める。
ふわふわと頭を撫でると、月子は困ったような顔で俺を見上げた。
さて。
俺が今しなきゃいけないことは、月子をめいっぱい愛でることでも、何もなかったように振る舞い夕飯の支度を始めることでもないらしい。
「これ、どうしたんだ?」
ふわりと撫でてみると、意外と良い毛並みで作られている。
カチューシャタイプか。
「…昨日、部活があったじゃない?」
「ああ」
「そのときに、犬飼くんと白鳥くんがくれたの」
「………」
「“東月はこういうの好きだから”って」
「………」
俺は彼らに喧嘩を売られたんだろうか。
もしくは、この状況を貰ったというべきか。
というか、とんだ言い掛かりだ。
「…錫也?」
「ん?」
「怒って、る?」
「怒ってないよ」
月子には、という言葉を飲み込む。
「…錫也がこういうの好きって、知らなかった」
「知らなかったも何も…俺だって初めて知ったことなんだけど」
「………え?」
「でも、可愛い」
我慢できずに、月子の頬にキスを落とす。
月子に変なことを吹き込んだ2人については後で考えることにして、今は目の前の月子に集中することにした。
「似合ってる、猫耳」
「もう何も言わないで…」
からかわれたということに気付いたのか、両手で顔を隠す月子。
右手で頭を撫でつつ、左手で腰を撫でると、「ひゃっ!?」と声を上げて俺にぎゅっと抱きついてきた。
お返し、と言わんばかりに、俺もぎゅっと抱きしめ返す。
「尻尾はないんだ」
「な、ないよ!耳ももう取る…!」
「だーめ」
月子の両手の動きを封じ、すかさず唇を奪えば、たちまち月子は脱力してしまった。
「抱っこしていい?」
「…もう、してるじゃない」
「じゃあ、このまま、向こうに連れてっていい?」
「………」
向こう、っていうのは、きっと俺の視線とか、この空気とかでわかってるはず。
月子が口をつぐんでしまったのもその証拠。
「可愛すぎるな、お前」
「…こういうの、好き?」
「月子なら全部好き」
「………」
「…なぁ、月子」
連れてっちゃ、ダメ?
耳元でそう囁くと、隠すように俺の胸に顔を埋めて、「…ダメ、じゃない」なんて、ものすごく小さな声で答えてくれた。
「…ありがとう」
月子の顔を覗き込んで、額、瞼にキスをしてから、その場で抱き上げる。
恥ずかしいのか、月子は俺の肩に顔を埋めたまま。
その仕草さえ可愛いなと思いつつ、ふと視界に入ったカレンダーに目を留める。
「………」
ああ、だから猫耳なのか。
そうか、と1人で納得し、未だに騙され続けている月子に頬を寄せた。
なんで猫耳を渡されたのか、わかってないんだろうな、こいつは。
…全部終わったら、教えてあげよう。
「月子」
「なに?」
「にゃーって言ってみて」
「?……にゃー」
「はい、良くできました」
My sweet pussycat
猫可愛がりしてあげる。
(白鳥、いつまで落ち込んでんだよ)
(だってさー!あげたらさー!目の前で着けてくれるかなーとか思うじゃん!)
(過去を悔やむより、今を生きろ)
(犬飼だって少しは期待してたろ!)
(…2人とも、ちょっといいかな)
end
2月22日=猫の日!
20120222