いつも、同じだけの
「……なあ姉貴」
鈴木辰哉、15歳。声変わりしてもうすぐ一年の低い声で姉の麻美に声をかけた。
「なに?」
「それ、やめてくんねえかな」
辰哉の指と視線の先には、十個以上の色も形も様々な目覚まし時計が置かれていた。
それらは朝になると麻美と辰哉の部屋で、けたたましく鳴り響くのである。
「えー?これがないと起きれないもん」
大学一年目だし、あんまり遅刻はしたくないの、と麻美が首を振る。
「せめて五個でどう?煩すぎて毎朝ほんとに迷惑してんの」
それはもう。悪魔の叫びのように。辰哉が眉をひそめると、麻美も溜息をついた。
「うーん……いやでも、それはちょっと困るな。辰哉、今ここに何個時計があるか知ってる?」
唐突な質問に、辰哉はとっさに答えられずに戸惑う。考えている間に答えを言われてしまった。
「14個なの」
「……そうですか」
それが何。俺にはどうでもいいことなんですけど。悪態をつきたいのを懸命に堪える。
「辰哉が10個、私が4個。毎朝私達が止めてる時計の個数の割り振り」
「俺のほうが多いのかよ……」
「何言ってるの、いつもそうでしょ」
当然のように言うな。
徐々に話が広がっていくのは分かるが、その中心は全く見えない。そんな会話が続いた。
「辰哉はいつも左から順番に、一秒に二つの目覚まし時計を叩いていくから、全部で5秒。もはやプロといってもいいくらい」
嬉しいわけがない。
毎朝気づかないうちにそんなことをしていたのか、と頭を抱えた。
「でも、そのリズムの正確さのおかげで私、いつもきちんと目を覚ませるんだ」
時計の音が大きいから、きっと母さんたちも同じこと思ってるはずだよと付け足される。そんなわけ無いだろ、適当な嘘つきやがってこいつ。
「だから、時計は増えてもいけないし、減ってもいけない。もちろん、私と辰哉が違う部屋で寝ることもありえない。私には辰哉が必要だから」
真面目な顔して、内心では起こしてくれる人がいれば誰でもいいんだ、姉貴は。
いい加減自立しろと思うけれど、俺がいないとダメな姉貴のことを気付くと甘やかしてしまうのはどうしてだろうか。
「じゃあ、暫くは我慢する。早く目覚まし時計なしで起きれるようになれ」
「はーい!」
麻美は嬉しそうに手をあげて、布団に入った。
リリリリリリリ!!!!!!
「やっぱり煩いっつーの!!」
バン、バン、と拳で軽快に時計の頭を叩いていく。
全て止めてから、その時計の数が10個で、リズム良くそれらを叩いていたことを実感して恥ずかしくなる。なんで俺が恥ずかしい思いをしなきゃならないんだ!
「おはよ、辰哉」
「……はよ」
朝は、寸分の狂いもなく毎日やってくる。