ある雨の日

木山さん(Twitter→@KIYAMA07)のガマKを書かせていただきました。





「あ、雨だ」
帰り道、電車を降りて少し歩いたあたりでぽつりぽつりと雨が降り始めた。雨はあまり好きじゃない。じめじめして暑いし、なにより濡れるのが嫌だ。段々と雨は強くなってきて、僕のシャツには不揃いなドットの染みがいくつも重なった。
今日はガマくんの家に遊びに行く予定だった。最近は大学が終わってから暇な時はガマくんの家にお邪魔してゲームをしたり映画を見たり――たまには勉強もしたりして、夜は泊まっていくことが日常になりつつあった。何だかんだ、何かしらの理由で僕とガマくんはほとんど毎日一緒に過ごしているような気がする。まあ、仲の良い友達ってそういうものだよね。
「うちまで走るか? あと少しだし」
「うーん、走るのはちょっと……コンビニ寄って傘買っていこ」
「わかった」
走るのは、と言いつつコンビニに小走りで入る。走るのが嫌というより面倒なことが嫌なだけなのかも、とも思う。店員さんの雑な挨拶を尻目に傘のコーナーに直行する。雨が降ってきたからか、傘のコーナーは既に店の入り口付近への移動が済んでいた。すごい対応の速さだと感心したけど、早いもの勝ちで売り上げが伸びるんだからきっとコンビニ界隈はどこも必死になるんだろうな。ガマくんはと言えば、ついでにトイレを借りてくると言って店の奥のトイレに消えていった。
「んー……」
予想はしてたけど、傘は意外と高い。ちょっと贅沢な学食が食べられちゃうじゃん、この値段で。外で強さを増す雨と、手元のビニール傘を思わず交互に見つめる。背に腹は代えられぬって言うしなあ。びしょ濡れになってガマくんの家で色々と借りることになるのは、流石にちょっと気が引ける。
っていうか、服が濡れたら乾かす間にガマくんの服着ることになって、そうしたら服のサイズが違いすぎて恥をかくのでは。何も悪いことをしていないガマくんが申し訳なさそうな顔でこっちを見ているのを容易に想像できる。どうしよう、もし「母親のならあるけど……」とか言われたら。ガマくんならあり得そうなのが怖い。
「よし、買おう!」
「元気だな、K」
「わっ!?」
び、びっくりした……真後ろに真顔でいきなり立つのはやめてほしい。
「服、少し濡れてるからうちについたら乾かしたらいい」
「……」
「もしかして、サイズを心配してるのか? 大きいようなら母親のを貸すけど」
「やっぱり!!」
「?」
ガマくんの思考パターンが読めてしまった自分が何だか嫌だなあ。ガマくんをちらっと見やると、ガマくんは怪訝そうな顔でこちらを見た。僕はごまかすように笑って傘を傘立てから一本勢いよく引っこ抜いた。
「傘、高いからさ。割り勘しよう」
「そうだな」
そそくさとお会計を済ませてコンビニを出ると、僕はもう土砂降りになりつつある空に向けて大きめのワンタッチ式ビニール傘をばん、と開いた。
「じゃ、行こうか」
明日は学校もバイトもないから、思う存分遊べる。この前読み途中だった小説の続きも読みたいし、あ、授業で寝ちゃったところも教えてもらおうかな。それで、
「K」
あ、忘れてたけどこの前歯ブラシを洗面台のところに置いたままにしちゃってたんだよね。捨てられてなかったら、新しいのじゃなくてそっち使おうかな。面倒だしこの際それはガマくんちにずっと置いとくんでもいいけど……って、それは流石に迷惑か。
「K」
「……ん? 今呼んだ?」
「呼んだ。傘」
「なに、傘がどうかした?」
「その……」
何だか言い辛そうなので身構えてしまう。買ったばかりなのにまさか雨漏りしてるとか。いやいや、さすがにないか。
「傘、おれが持つから……」
「え」
「ちょっと低くて……ごめん」
心底申し訳なさそうに、いやそのわりには強引に傘を僕の手から奪い取る。
「え、うそ、そういうこと!?」
「……」
「返事くらいしてよ!」
それでもガマくんは黙ったまま歩くから、僕は濡れないようにその横を歩くしかない。悔しいから、あとで傘代は全額ガマくんに請求しようと思う。


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