SSS
覚えていよう ◇◆ 2018/10/24 01:19
年上の同期に借りたアイシャドウがわたしの心をぎゅっと固めて強くしたみたい。帰り道、ぽつりぽつりと、紡いだと言うよりは生み落とされた言葉の欠片たちも、柔らかい綿をきゅっと手のひらで固めたみたいで居心地が良かった。救われない話の、緩やかに底へと堕ちていく話のやさしさが愛おしい。ほんとうは溜息だった吐きたくなかった、けれど、こんなにも生きていたいと思えるのも事実で、そんな自分も嫌いじゃないと思った。何かを犠牲にしても、得られる感情が有るのなら私は後悔しないだろう。私の心が豊かになっているのかそれとも、実は何かが消えてしまったことで他の何かが見えたのか、今の私には知りようもないことだけれど。より良い自分になっていると信じないと穏やかにも激しくも生きていけない。生きていなければ、明日の私にも出会えない。さよなら世界、 ◇◆ 2018/10/24 01:14
前髪を切っても宿題は残ってる。お風呂をあがって古い眼鏡をかけて、そうすると視界はだいぶぼやけてくる、それが良い。ぼんやりとそこに存在する世界がわたしを何処かへ誘おうとする。夢の国なのだろうか、いや、夢なんて大仰な何かではないかも、例えば明日、とか、大人の階段、とかそれからあのひとの胸の中とか。現実とまぼろしは曖昧にゆらぐレンズの先にある世界の表と裏みたいだ。残ってる宿題を終わらせないと、だんだんと窓の外から光が襲ってくる。
なにもかも ◇◆ 2018/10/24 01:13
はやく冬になって欲しい、私を鋭い寒さで刺し殺して欲しい、あの時私を睨んだ彼の冷たい瞳よりも激しい痛みが欲しい。きっとこれ以上好きな人なんて現れないだろうと思った十七歳の夏の私の磨かれたまるい氷のような心を返してくれとは言わないけれど、まだ若い私の、まだ若いはずの私の心に諦めを植え付けた彼をきっとこれから先許すことは出来ないし、忘れられないし、彼から貰ったオルゴールを捨てることだってきっとずっと出来ないまま生きていくことになる。同じオルゴールが五〇〇円くらいで売っていたのを、父と二人で行ったフランス旅行の時に見た。あんなに大事に持っていた唯一無二の代物は量産された安物だったし、私だって私の代わりなんていないのよと言い聞かせてみたって本当は代わりが誰にでも出来るのだろうと分かっている、分かっているというのは嘘かもしれない。そういってまた諦めている。彼のせいで。彼の植え付けた諦めのせいで。だけど、女子大生の携帯の中の未読メッセージみたいになりたくない。気付いたら忘れられているような女になりたくない。私にこんなにも傷をつけたくせに、自分だけ私を忘れていなくなるなんて。結婚までするんじゃないなんて言われて馬鹿みたいに夢を見た私の気持ちが分かりますか。あなたの言葉を大事にとっておきたかったのに呪いの言葉になってしまった悲しみが。貴方には分からない。分かったなんてそんなこと言わないで欲しい。近づきたかったけど、今はもう、絶対に私に近づかないで、癒えかけた傷をまた抉ったりしないで。あなたにもらったキーホルダーが捨てられなくても私は生きていけるんだ、貴方と見た映画が微妙だったことも、そのままでいいよ。綺麗な思い出にして落ち着かなくても私の心の中で収まる場所を探して、いま見つけそうなの。砂糖でべたべたにコーティングしなくても、市販の薬の錠剤かみ砕けるの。たぶん大人になっちゃったんだよ。あのひと ◇◆ 2018/10/24 01:11
もういない知人、いや、あれは知人と言っていいのか分からないけれど私はその人の綴る言葉がとても好きだった。きっとどこかで生きていると信じているけれど触ったら壊れてしまいそうなほど繊細で神聖でそれでいて卑屈なひとだった。どうしているだろう。話した回数で言えば私の持っているネックレスの数よりも少なかったと思う。人の闇を言葉が救えると少しは信じていた私もあの人があそこから居なくなった時には少しだけ自分と世界のすべてを憎んだし、どうして自分から救われにいかないのかと理解もできない他人の心を勝手に作り上げては手探りで疑ったりもしたし、結局私はあの人の心を踏みにじっただけなのかもしれない。あのひとが私のせいで消えたのだとしたらどうしよう。私が余計なことを言ったから。私が。私が。それすらも私の思い上がりであの人はただ好きなタイミングでそこから消えただけなのにやっぱり私は傲慢だ。静かに落下して行く彼女と一緒に落ちているくせにわあわあ喚いて彼女の手を無理やり握ろうとして、周りにある壁に手をかけて。それも私だと、これまでに形成された私の一部であることはまず間違い無いのだけど。だけど、だけど、私は彼女のようにもなりたかった。今の自分を捨てることもできないのに他人のような自分に憧れる。生まれ変わったら何になりたい?私の友達は「炊飯器になりたい」と言った、それくらい、人間に未練なく生きたい、私はまだ来世も人間になりたい、来世は消えたあの人みたいな人間になりたいけど二番煎じになりたく無い、わがまま言うのもやめたいでも、私を好きになってほしい。新しい感情に、はじめて名前をつけるひとになりたい。きっとただ人に愛されたい。MY MAME ◇◆ 2018/05/25 13:11
よしき、あゆみ。わたしの名前。わたしは昔からボーイッシュな性格と見た目をしてたから、いつも苗字で呼ばれることが多かった。
いつか名前で呼んでくれる人がいたらいいな、なんて思ってた。
わたしだって女の子として見られたいって思ってた。
「あゆみちゃん、だよね?」
だけど、わたしにそう言って微笑んだのは余りにも女の子らしくて綺麗で、ふわふわの笑顔のひと。細くて白い手が、わたしに握手を求める。
「同じクラスだ。よろしくね?」
……ああ、わたし、この子が苦手だ。
宇宙の真理 ◇◆ 2018/05/25 01:33
夏が近づくと、きみとの距離が縮まっているような気がする。きょう暑いよね、汗かいちゃう、
お前そう言いながら近づいてくるんじゃねー。バカ。
ごめんって、だって、
なに? ううん、なんでもない。
きみは変なの、って笑う。
手をつなぎたいって言ったら、暑いって言いながらぎゅってされた。
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