蕩けるコバルト・ブルー
「承太郎!帰りが合うなんて久しぶりだね」

この春、大学生になったジョナサンは身長が自分と同じ195センチもあるのに、横に並ぶ。馬鹿デカイ二人が並ぶと異様な光景になってしまうのにもかかわらず。

「ふふ、今日はね、承太郎の好きなカレーだよ!」

ふわふわと笑いを零す姿に、自分もつられて微笑んでしまう。
しばらくして、自分たちが住むマンションに着く。しかし、部屋の前に承太郎にとって大嫌いなヤツがいた。

「あ、ディオ!ごめん待ってた?」
「ああ、待っていたぞ。…俺はタバコは嫌いなんだが」

ディオは眉間に皺を寄せ、承太郎を睨む。ここで争いを起こしたくない承太郎は、舌打ちと共にタバコを足で踏み消す。すると、紫煙が風に消えた。

「ジョジョ、今日は予定あるか?」
「いや、特にないよ?」

その瞬間ギラリと目が光る。危ない、と瞬時に承太郎は危機を察知した。が、ジョナサンが無いと言い切ってしまったために何も言えない。

「レポートで行き詰っているんだ、手伝ってくれないか?」
「うん!別にいいよ。僕と同じだもんね」
「すまないな…。じゃあ、承太郎君借りていくよ」

女が眩む様な笑顔を浮かべるディオに承太郎は腹が立って仕方がなかった。

「…おいテメェ、ジョナ兄に何かしたら――――」
「そんな事、するわけないじゃあないか」

肩を掴まれる。痛さなど屁でもないが、見えない手で顔を押されている様な威圧感を感じる。肩の手を振り払うと、ディオは腹が立つほど綺麗な笑顔で笑った。

――畜生、負けてしまった。

「さ、承太郎君から許可もらったし、行こうかジョジョ?」
「ごめんね承太郎!明日にでも作るよ!」

ずるずるとジョナサンは引っ張られて、承太郎の前から消えた。

(ここでジョジョに手を出さないのは、大馬鹿のすることだ)

にんまりとディオは笑いながら、隣で一緒に歩いているジョナサンの顎を捕まえる。

「ディ、オ……?どうしたの?」
「すまないな、お前の弟との約束は守れるわけない」

ちゅっ、と軽いキスから、絡め取られるぐらいの深い深いキスへと変貌する。

「…っ!?、ちょ、やめっ、てよ!ディ、オ!」

瞬間鉄の味が口に広がる。ジョジョに噛まれたのだ。強く拒絶したジョジョに、ディオは内心ニヤリとした。何故なら、これで友人とではなく、自分を見てもらえるだろうと。

「―――っ、君がそんな人だとは、思わなかった!」

そう言い残してジョジョは来た道を走り去る。キラキラ光る涙に濡れた顔は美しい。そうしてディオは、自分と一緒にジョジョの残り香を、抱いた。

しかし、ジョナサンは一刻も早く、帰りたかった。承太郎が待つところへ。幸い歩いた距離は、短く、ものの一分で帰宅できた。

「おかえり、ジョナ兄――――っ!」

ぽろぽろと大粒の涙を溢し、顔を真っ赤に染めているジョナサンの姿を見た、承太郎は激昂するところだった。やはり、ディオにやられたのだ。

「承太郎っ……」

蚊の鳴く様な声で、名を呼ばれる。その声で我に帰った承太郎は、とりあえず落ち着かせるためにジョナサンの手を引き、ダイニングテーブルに座らせた。

ジョナサンが落ち着くよう、温かいダージリンティーを淹れる。一杯に角砂糖三つ、ミルク沢山をも入れると、ジョナサンは覚えていたんだね、と笑った。しかしその笑顔は痛々しく、余計胸を締め付けられてしまう。

「ありがとう、承太郎」

さっきより声がしっかりしていて、承太郎は安心する。話が切り出されるまでブラックコーヒーを飲む。承太郎は野次馬みたいに話を聞き出すなんて、馬鹿な事はしないのだ。そのお陰で、毎回聞き役に回ってしまうのだが。

「………ディオが、僕の事好きだったんなんてね……」

承太郎は、まだ知っていた事なので何も答えない。

「キス、されたんだ」

唇を触りながらジョナサンは言う。まるで絵空事だったのかの様な仕草に承太郎はつと、違和感を感じる。何処か、恋する乙女の様だと、頭に浮かんでしまったからである。

「……もう分からない、僕は何をしているのか、ディオが何を思っているのかさえ―――――」
「分からなければいい。謎は謎のままだ」

ディオになぞ、掠め取られる訳にはいかない。気持ちは芽を出す前に刈り取ればいいのだ。ブラックの海に共に沈めばいい。そうして承太郎は、兄に対して初めて、嘘をついた。



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