カイロにて
 
彼は深夜の凍える様なカイロが好きだ。だから、夜になればこのテラスにやってくる。
何故夜が好きなのかと問えば、この躯に貯まる汚ならしい二酸化炭素が出ていくのを感じるからだ。と彼が嬉しそうに言った。

「夜は冷えるね」

しかし彼の着ているのは、紺のタンクトップと長いズボンのみだ。

「そうですか」

煌めく夜空には似つかわしくない赤の双牟が、こちらを覗く。ちらりと首筋にある縫い目が艶かしい。そして、無意識に数時間前に付けられた額の『芽』に触れた。

「ねえ君、こっち向いて」
「何ですか…――っ!」

ぬるりと冷えた舌が進入してくる。上顎をつぅ、と撫でられて、ぞくぞくとした寒気にも似た何かが背中を迸る。

「んくっ……。君の血は何だか甘いね。僕の好きなチョコレートの味がするよ」

自らの唾と彼の唾、そして血を纏めて飲み込む。しかし、少しだけ口の端から垂れる薄く色がついた液体に、花京院は少なからず性を煽られる。

「彼がね、君の血だけはやめろって言ったから、少し飲みたくなってね」

カンラカンラと彼が笑う。

「ほら、やめろって言われたらやりたくなるでしょ?」
「もし知られてたらどうしてたんですか…」
「素直に謝るよ」

花京院は驚いた。あのお方が、それで許してくれるのに。やはり彼はお気に入りなのだ。いや、それ以上の伴侶なのかもしれない。

「ああ、空が明るくなってきた。また、ここに来てね、花京院典明」

一度も彼自身の名前を明かさずに、彼は屋内に戻っていった。しかし、何故自分の名前を知ってたのかと一人明ける空を、見つめながら呟いた。

 


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