自分の母親を殺した父親とも、やっとの事で死別する事が出来たディオは、一人馬車の中で考えていた。この貴族をどうやって踏み台にしようかと。
馬車が止まり、勢い良くディオは外に飛び出す。そこには、新しい義兄弟のジョナサンが突っ立っていた。
じろじろと舐める様な視線が気持ち悪い。
『君はディオ・ブランドーだね?』
ジョナサンは手をきびきびと動かす。これは手話だ。意味こそ分からないが、動かすニュアンスはなんとなく分かる。
「そういう君はジョナサン・ジョースター」
溜め息をつきながら言うと、ジョナサンは大輪の花に負けない笑みを浮かべた。どうやら、唇を見てどんな話をしているか解るようだ。つまりは読唇術。
『皆からはジョジョって呼ばれているんだ。よろしく』
複雑に変わる手話は意味が全く分からない。しかしディオは、少しだけジョナサンに興味を持ち始めた。
「わかったジョジョ。早速だけど案内してくれないか」
勝手につけたあだ名で呼ぶと、嬉しそうに螺旋階段へ手を引っ張っていった。
こうして奇妙な生活が始まった。
どうしてもジョナサンと会話したいディオは、時間を費やし、手話を猛勉強した。しかし、単語の数だけ手話はあるので殆ど筆談だ。
『ジョジョ、マナーはちゃんとしろ』
『分かってるよディオ』
夕食の団らんにディオは棘のある言葉を書き連ねる。
それを書いた後に、文面にあった表情をするのがまた面白い。今は口を少し尖らせているといったところか。
サラサラと文字をメモ帳に綴り、ペンと共にディオへ押す。
書いてある言葉は?と、思い、ディオはメモ帳に目を通す。
『でもディオが教えてくれるだろう?』
その言葉に、表情に、心が甘い蜜で満たされる。
まかり間違う事は人間誰しもあるが、よりによってこんなときとは。ジョナサンのせいで赤らんだ顔を手で隠すと、それはクスクス笑うのであった。だがディオは自尊心を傷つけられたとみて、夕食を早々に終らせ自室へ戻った。
夕食からというもの、ジョナサンのまるで花の様な笑顔を頭に浮かべている自分がいる。ああ、もう頭の中は掻き回されている。
――自分は同性愛者じゃあない。
――あいつはただの踏み台だ。
本来の目的を思い出してしまったディオは、ジョナサンを孤立させるために脳内で綿密なシュミレーションをする。そしてこの侮辱は絶対に晴らすべきだと、ジョナサンの部屋にきた。どうせノックしても気がつかないので、勝手に入る。
『懐中時計、貸してもらうよ』
胸中に書き置きを書くとディオは自室へまた戻る。
鎖に繋がれた時計を妬ましく覗く。奴に『落ちていた』とだけ伝えたらどうなるのだろうか。ディオは意地悪の内容が、少しだけの好意に裏打ちされているのには気付かず、ニヤニヤと意地悪を考えるのだ。
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bkm