好き、


「豪炎寺」
「………」
「私ね、アメリカに戻るんだって」
「…ああ」
「日本にいられないんだって」

大丈夫。私の頭は至って冷静。
大丈夫。ちゃんと考えられる。

「アテネって知ってる?」
「神のアテネか、それとも」
「女子サッカーのアテネ」
「…少しくらいなら」
「それね、私なんだ」
「…知っている」
「あー、知ってたんだ」

そっか、うー。何を話せばいいのかな。空気重い。私はあんまり落ち込んでる訳では無いからなー。普通ならここで別れ話か遠距離恋愛がどうとかになるんだろうけど。

「豪炎寺」

私が言いたいのはこれからの事じゃない。私の気持ち。

「好きです」

別れるとかは私が決める事じゃない。

「豪炎寺の事が好き」

もともと私はぐだぐだな人なんだから、これからの事は豪炎寺任せにしよう。

「だから、豪炎寺が別れたいなら別れよう」

逃げてるなんて分かっているけど。

「遠距離でも許してくれるなら、」

恋人でいて下さい、と言う言葉は言えなかった。心理的にも、物理的にも。この物理的にも、は察して欲しい。

「河野」
「…うん」
「一生の別れじゃないだろう?」
「そうだね」
「お前が帰ってくるかもしれないし、俺がアメリカに行くかもしれない」
「うん」
「俺は、別れるつもりはない」
「う、ん」





それからの事は覚えていない。
ただ、忙しい4日間が過ぎたと思う。

気付けば搭乗時刻まではあと数分、という時間になっていた。

最後まで誰も泣かなかったし、笑顔でいつもと変わらない時間だった。

そういえば私がアメリカに戻ると噂が雷門中に広がった次の日にあの縦巻きロールのお姉さまに謝られた。私は1発、思いっきりグーで殴ってやった。

「真衣ちゃん、元気でね」
「ありがとう、秋ちゃんもね」
「少しはぐーたらをなおせよ」
「かぜママン…」
「真衣っ!」
「マックスっ」

「河野、」
「豪炎寺、行ってくるね」
「ああ」

行ってきます!




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