「おい、」

みょうじ、と呼ぼうとして相手がこの場にいない事を思い出す。

そういえば、もうアイツは…みょうじはこの部室に1週間来ていない。

苗字がここに来ない理由は間違いなく俺だ。俺1人の問題か、と聞かれると違うのだが。…俗に言う、喧嘩をしたのだ。まあ、喧嘩をするのはいつもの事なのだが。みょうじとの口喧嘩は日常茶飯事だから毎回すぐに何も無かったかのように顔をあわせ、笑い合っていた。だが、今回ばかりはそうはいかなかった。

《鬼道…さいってー!》

そう言いながらみょうじは目に涙を溜めて部室を飛び出したのだ。

何が悪かったのか俺は、…否、俺もアイツも分からない。多分、何かが俺たちの中で噛み合わなくなってしまったのだろう。


部室から外を覗けば、今の俺の心を表すように曇天が広がっている。

どうすれば良いのかなんて頭では分かっている。謝ればいいのだ。ごめん悪かった、と一言言えばみょうじはきっと笑って私もごめん、と言う筈だ。

それが出来ないのはきっと、俺たちの関係が“喧嘩友達の恋人未満”という所にあるのだろう。


…外が晴れたら、みょうじを探しに行こうか。end..

* * * *
訳 / 相手のない喧嘩はできぬ

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