「鬼道さーん」
「なんだ。ってお前は走る…」

な、

最後まで言い終わらないうちに目の前の女は床に寝そべった。正確に言えば、転んだ。

「みょうじ、」
「えへ?」

苦笑いで俺が差し出した手を掴むみょうじ。スカートが捲れて下着が見えている。あまり見ないようにする、年頃の男には無茶な話だが。

「みょうじ、スカートが捲れているぞ。ちなみに、下着も見えているが」
「っ…!」

平然と言ってのければ(内心はかなり焦っていたが)、みょうじはバタバタとスカートを直す。

「で、何の用だ」
「あっ!」

…こいつは走ってきて転び、スカートが捲れた事で用件が頭から抜けていたらしい。

「あ、あの!」
「なんだ」
「今日ってサッカー部の練習はいつも通りですよね?」
「その予定だが」

みょうじにサッカー部の事は関係ないのでは、と思った。マネージャーでもないのだから。

「見学しに行ってもいいですか?」
「見学?」
「はいっ!」

笑顔を俺に向けてきたあと、みょうじは急に不安そうな顔をする。

「迷惑ですよね…」
「いや、大丈夫だ」
「え、」
「迷惑ではない。お前が来たいなら来ればいい。ただし、走って来るなよ。みょうじはすぐに転ぶからな」
「ありがとうございます!でも、転びませんよ!」
「数分前の事も忘れたのか?」
「うっ…」

頬を膨らますみょうじを見て俺は柄にもなく笑った。含みのある笑いではない、普通の笑い。

「みょうじ、」
「はい?」
「練習を最後まで見ていくか?」
「そのつもりです!」
「なら、帰りは送ろう」
「え!?」
「一緒に、帰るか」
「…はい!」

ああ、今日の練習は頑張らなくては。


End..


2009.11.18

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