幸せってなんですか

 今年、11歳になる兄さんはホグワーツに通う。ホグワーツに通い、友達ができ、楽しく学生生活を送っていく。それは今まで母のことで苦痛を感じていた兄さんにとってとても嬉しいことなのだろう。俺も10年兄さんのことを見てきたんだ。兄さんがどんな思いで暮らしてきたかなんてわかってるつもりだ。一番側で見てきた、俺のこの世界で一番大切な兄。兄さんには幸せになってほしい。
 母は兄さんより俺の方が優秀でできる息子だと褒める。どうしてレギュラスができてシリウスはできないの、母は毎日狂ったように言った。それは兄さんを苦しめる言葉だったけれど、母にしてみればそれは兄さんへの期待の言葉なのだろう。母は憎くて兄さんにそう言うのではない。兄さんにできるようになってほしいからだ。母が本当に求めているのは俺ではなく兄さんだった。しかし母の不器用な思いは兄さんに伝わるわけがなく、兄さんの心にはプレッシャーと俺への劣等感でいっぱいになっただけだった。
 俺は、ただ母の期待が俺だけに向き、兄さんを解放してあげたら、そういう思いで今まで頑張ってきた。しかし兄さんを助けてあげることはできなかった。無理矢理習わされたバイオリンが上手く弾けなくて母に怒られてた兄さん。陰で泣きながら練習していたことを俺は知っている。兄さんは頑張ってきたのだ。
 ホグワーツにいき、グリフィンドールに選ばれれば母は兄さんを解放してくれるだろうか。兄さんには幸せになってほしい。幸せになってもらえるなら、俺は喜んで兄さんの代わりにブラック家を継ごう。兄さんには純血主義だと勘違いされたままになってしまうかもしれないけど俺が曖昧な態度をとらず進んで家を継ぐといえば母は兄さんを諦めてくれるだろう。
 父さんは、どう思うかな。父さんのことは好きだけど、父さんがブラック家や純血主義をどう思ってるのかなんて知らない。言ったらあの困ったような笑顔を向けられるのだろうか。

 はぁ、と天井を見上げればスリザリンの紋章が彫ってあった。誰が彫ったのかは知らないがずっと昔からある。細かいところまで綺麗に彫ってあるからきっと魔法で彫ったのだろう。俺は、それをなぞるように手を動かした。もちろん天井に手は届かないから空気を撫でただけだ。重い、何もかも。初めて元の世界に帰りたいと思った瞬間だった。赤坂の不機嫌な顔が浮かぶ。帰れるわけがないのに。


能無しかぼちゃ野郎










110703
久々…!
珍しくシリアスです。


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