「俺は『鬼』だ」

「え? ……はぁ、そうなんですか」


――千景さんからの意外すぎるの告白に思わずきょとんとしてしまった。

 何かを思い詰めたような顔をした天霧さん呼ばれた。どうしたのかな、と思いながら天霧さんに背中を追いかけてついていくと着いた先は千景さんの部屋だった。え? この部屋には近づくなって言われてるんだけど? 入るのを躊躇うが天霧さんに促され仕方なく部屋に入る。天霧さんとはここでお別れのようだ。中には真剣な瞳をした千景さんがいて座るよういわれた。何を言われるのだろうとそわそわしながら千景さんの前に座る。ついに追い出されるのか、と心なしかいつもより不機嫌そうに見える千景さんを見て思った。
 千景さんのこんな表情見るの、はじめてだ。私の中の千景さんは常に無表情で何を考えているかわからないような人だ。しかしたまに空を見上げすごく優しそうな顔をするときもある。きっといい人がいるのだろう。私の出番はないことはわかっていた。
しかしいざ千景さんの口から出て行けなんていわれたら私はどうするんだろう。悲しみのあまり泣くのだろうか。私は感情の波が小さいほうだ。最後に泣いたのはいつだっただろうか。強がりなのかもしれないけれど私は泣かないだろう。はい、そうですかと諦めてでていくんだろうな。しかし泣かないといっても私だって好きな人から拒絶されれば傷つきだってする。できれば千景さんの口からそんな言葉はききたくない。もしかしてこの沈黙は私が申し出るのを待っているからなのか。自分から言ったほうが自分のためにも千景さんのためにもいいのかもしれない。しかし勇気のない私はただ千景さんの言葉を待つばかりで口を開こうにも言葉の音がでることはなかった。沈黙が長く続くなかやっと千景さんは口を開いた。あぁついに……と目を瞑った。


――そして冒頭に戻る。


「俺は『鬼』だ」

「え? ……はぁ、そうなんですか」


 千景さんからの意外すぎるの告白に思わずきょとんとしてしまった。『鬼』?鬼ってあの赤鬼青鬼とかの鬼だろうか? あとは吸血鬼とかくらいしか私は鬼といわれてもイメージできなかった。しかし青鬼にも吸血鬼にも千景さんは似ても似つかない風貌である。というか人間にしか見えない。確かに日本人離れした容姿だとは思っていたけれど。てっきり追い出されると思っていた私は安心してため息をつく。

「それだけ、か?」

「? はい」


 特にリアクションを起こさない私に千景さんは呆れたように息を吐く。千景さんは千景さんが『鬼』だと知り私が逃げたり怯えたりすると思ったのだろうか。正直追い出される以外ならば千景さんが鬼だろうが幽霊だろうがどうでもよかった。鬼といわれたところで私は千景さんのいう『鬼』というものがわからない。千景さんが『鬼』でも私を拾ってくれたことは変わらない。千景さんはこの1ヶ月私に本当に浴していただいた。見ず知らず、ましてや未来からきたなんて頭のおかしいことをいう私に衣食住を与えてくれて私は本当に千景さんに感謝している。だから千景さんが悪党だろうが宇宙人だろうがどうでもいい。それに千景さんのところをでても私にはいくあてもない。この時代では千景さんだけが命綱だった。


「千花、お前はおもしろいやつだな」

「? ありがとうございます?」


 ククッと低い声で笑う千景さんを不思議に見るが千景さんは静かに笑うだけだった。千景さんが笑うところを見るのは珍しい。思わず私も頬が緩んだ。さっきまでの張り詰めた空気は消え少しいつも通りの空気になった。今ならいってもいいだろうか、そう思い口を開く。


「私、追い出されるんじゃないかと思ってました」

「俺が千花を手放すわけないだろう」


 当たり前だ、みたいにいう千景さんにどきっと心臓が高鳴る。――それは本当ですか? ずっと傍にいさせてくれますか? とは言えなくて言葉を飲み込み言葉の代わりに息を深く吐く。ひとまず今すぐに出て行くことはないようだ。安心で胸がいっぱいだが、不安も少しある。それを隠すように私は笑いながら言う。


「千景さん、ありがとうございます」









例えば愛が絶滅したとして
















それでも私は千景さんの傍にいたいと願うだろう。
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