千景さんはイマイチわからない人だ。突然平成の世から江戸の世に現れた私を何故かお世話してくれている。学校にいく途中急に目の前が真っ暗になったと思ったら千景さんの前にいた。突き付けられたぎらりと光る真剣が本物かどうかわかったのは自分の血がぽたりと流れてからだった。現代には銃刀法という法律があり誰しもが刃物、ましてや真剣など持ち歩けるわけがない。おかしい、そう思うと同時に自分の足元の畳に落ちた血を見て血が大の苦手な私は気を失った。


 目が覚めると切られた首には布がまかれてあり布団に寝かされていた。隣には金髪に綺麗な赤い目の恐ろしいくらい整った顔の彼がいて私はまだ夢を見ているのかと疑ってしまった。一杯の水を頂き千景さんからの質問に答えると「ここにいろ」と言われた。行く当ても身寄りもない私はもちろん承諾した。その時私は切られたことを忘れ千景さんのことをとても親切な人だと思った。


 それから千景さんのお世話になり半月ほどがたったが前言撤回しよう。千景さんは決して親切な人ではない。
 用意された部屋で寝るかと人と話すことくらいしか1日のすることがない私のところに千景さんはふらりと現れては去っていく。会話もなく縁側に座り庭や空を見ている私の隣に座りただ一緒にいるだけだった。何しにきたんですか? と聞きたかったけれど千景さんの纏う雰囲気に恐れ聞けなかった。それに千景さんとのその時間は嫌ではなかった。
 
 千景さんとの会話というと千景さんから質問される未来のことに答えるくらいだった。あと覚えている会話というと、私は初めは千景さんのことを「風間様」と呼んでいた。しかし様と呼び慣れていない現代人の私に違和感があったのか「好きに呼べ」と言ってくれた。そんな恐れ多い、と思ったが千景さんが赤い綺麗な瞳で真剣そうに私を見るから断れなかった。確かに様とは呼び辛かったから助かったのかもしれない。少し千景さんに近づいたような気がした。


 この半月、私が千景さんを見ていてわかったことは千景さんは気まぐれな人ということだ。きっと私のことも未来から来たからという物珍しさでここに居させてくれているのだろう。ここ数日千景さんは忙しそうで私の所に来ることも減った。それを少し寂しく思ったけど忙しいのにわがままは言えないな……と、そこまで考えて私は我が儘を言える立場じゃないだろうと我に返った。私と千景さんは恋仲でもなければ友人ってわけでもない。ただの居候とその主だ。
 最近千景さんは私の隣に座っているときすごく優しい表情をしている。誰かいい人でも出来たのだろうか。なら私はもうそろそろここには居られないのだろう。もしかしたらここにこなくなった理由はその子に会いに行っているからかもしれない。何故か胸にもやもやっとした黒くて重いものができた気がした。
あれ私、千景さんのこと、好きになってる。









言葉に愛を奏でて

















(鈍感な子と不器用な人)
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テーマ「人外ファンタジー」
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