朝から正臣の回りはいつも以上に賑わっていた。正臣は人懐っこい性格で知り合いがたくさんいるからいつもいろんな人と一緒にいるのを見るけれど今日は特別なにかあるらしい。


「千花! 今日はもちろん何の日かしってるよな!?」


帰り道、いつもの倍テンションの高い正臣のノリについていけず若干引き気味になってしまう私に正臣はつまらなそうな顔をした。


「……スーパーの安売りデイ?」

「なにその庶民的な回答。まったく知らないのかよー!千花ちゃん何年俺の友達やってるの?俺たちの友情ってそんなに薄いものなの?正臣くん泣いちゃう!」


訂正しよう、私は若干どころじゃなくドン引きしている。正臣とは中学二年生で同じクラスになっていらいずっと友達をやってきたけどやっぱりそれは時間の無駄だったのかな。なんて本当は思ってもいないことを考えてみる。


「嘘だよ。知ってるよ。誕生日、でしょ?おめでとう」

「…素直に言われるとキュンとくるな…。プレゼントは千花でいいぜ?」

「正臣気持ち悪い」


ガーン、と効果音が付き添うな感じにショックを受けている正臣を尻目に私は携帯を動かしメールをチェックする。隣でぶつぶついっている声が聞こえるがそれも全てBGM化していた。


「あ! じゃあ飯食いにいこうぜ。デートしよう。それで許す!」

「あー…今日予定入ってるんだ」


良いことを思い付いた! と言いた気に言う正臣にできれば行きたい気持ちでいっぱいになるが生憎今日は予定が入っていた。正臣を優先したいのだけどあの人の約束を断ったらひどいことになりそうだ。それに、


「デートなら、沙樹に会いにいきなよ」


本当はいかないでほしい。けれど正臣にはちゃんと彼女がいて誕生日に会わなきゃいけないのは沙樹だと思う。沙樹の名前をだすとさっきまでテンションが高く緩んだ表情をしていた正臣は一瞬で真剣な表情になった。


「沙樹とは、もう終わったよ」

「嘘」


正臣との繋がりで沙樹とも仲良くしてたから、あの事件後も私はよく沙樹のお見舞いにいってる。だから正臣が今だ沙樹にあっていないのも知っていた。


「…千花、俺はお前が、」

「ごめん今日臨也さんと用事があるんだ。正臣は、沙樹のところいきなよ」


正臣の言葉に被せるように私はいった。正臣の言葉はきっと私にとってすごく嬉しい言葉だったんだろう。でも正臣は沙樹の彼氏で沙樹は正臣の彼女で私は正臣と沙樹の友達で。今だ正臣が沙樹に会えないのはきっと沙樹のことが好きだからなんだろう。好きだからあんなめに会わされたのに会えるわけないとか思っているんだろう。俯く正臣と私。一気に空気が重くなってしまった。


「…そうかよ。じゃあ沙樹のところ、いってくるわ」

「…えっ」


正臣の言葉にはっと顔を上げるが正臣はもう後ろを向いて歩きだしていた。ばかだ私。思わず止めたくなる衝動をなんとか抑え私は涙を堪えた。自分からいったくせに。あんなにも沙樹と正臣が上手くいってほしいと思っていたのに。実際正臣が沙樹に向き合おうとしたら、いかないで、なんて思ってしまった。なにやってるんだろう。自分のやっていることがばかすぎて涙がでてきた。そんなところに空気を読まず携帯の着信音が響いた。でたくない、そう思ったけれど画面を見るとあの人で急いで通話ボタンを押した。


「…はい」

『もしもし千花ちゃん? どこにいるの?』

「あーえっと、すぐ向かいますよ」


そういい後ろを向き歩きだそうとすると前の方に臨也がいるのが見えた。


「『あぁもういいよ、見つけたから』」


目の前の臨也と電話の中の臨也の声が聞こえた。どうやら迎にきてくれたらしい。どこにいるかもわからない私をよく見つけられるなあと思ったけれど、待ち合わせの場所から来良に向かう道をたどればすぐ見つけれるだろう。待たせてしまって申し訳ないなあと思うけれどまあ臨也さんだしいいや。目が赤いままだと思うけど、臨也さんは気にしないだろうし私も気にせず臨也さんの側による。


「じゃ、約束通りロシア寿司おごってくださいよ」











「サイモンおいしかったよ。ありがとう」


サイモンにお礼をいいお金を払い終わった臨也さんの後ろに続き店をでる。じゃあありがとうございました、といい臨也さんと早々分かれようとするけれど臨也さんは送っていくといってくれて、最近は危ないからお言葉に甘えて送ってもらうことにした。


「千花ちゃんさー、なんで自分から正臣くんを沙樹ちゃんのところへ向かわせるわけ?好きなんじゃないの?」


唐突に正臣の話題を出す臨也さんにびっくりして目を見開き足を止めてしまった。夕方の話を聞いていたのだろう。ストーカーみたいだなあ、なんて思ってしまったけれど臨也さんにはいわないでおく。情報屋なんてそんなものだろう。


「…好きですよ。でも沙樹のことも好きなんです。だから正臣にはちゃんと沙樹と向きあって欲しい」

「そんな綺麗事いってていいの?沙樹ちゃんと正臣くん、今頃仲直りしてまた付き合っちゃうかもよ?」

「そうですね。そうなったら、それでもいいんです。私が諦めればいいだけの話ですから」


言い詰まることなく私は答える。綺麗事を言ってはいけない決まりなんてない。実際に正臣と沙樹がよりを戻したら私は沙樹に嫉妬して沙樹を恨むかもしれない。沙樹と正臣を合わせた臨也さんのことも恨むかもしれない。それでも口だけは綺麗事を言って自分の気持ちを抑えようと思った。私の言葉に臨也さんは楽しそうに笑い振り返って私を見る。


「千花ちゃんって報われないよねぇ。やっぱりおもしろいよ」

「うるさいですよ。あ、もうここでいいです。さようなら」


無理やり臨也さんと別れ家へと急ぐ。今頃正臣は家にいるのかな。もう病院は面会終了だろうから病院にいるということはないと思う。沙樹とは、どうなったのだろう。やっぱりよりを戻すのかな、なんて考えたら自分がどんなに正臣のことを好きだったのかを思い知らされたような気がしてやっぱり諦めたくないなあなんて思ってしまった。沙樹とよりを戻そうがちゃんと話をつけようが私も明日正臣に話をしよう。今まで沙樹を理由に逃げてきたのは私。正臣は今日沙樹とちゃんと向き合ったのだから。


「千花、」


 家の側の公園を通り過ぎようとすると誰かに名前をよばれ引き止められた。振り返ると正臣がそこにはいて、思わず逃げようとしてしまった。


「ちょ、なんで逃げるんだよ」


 しかしパシッという音とともに正臣に左手を捕まれ逃走は失敗に思ってしまう。私なにやってるんだ。今日2回目のそんな疑問が頭に浮かぶ。さっき正臣と向き合うと決めたのにいざ正臣を目にするとどうなったか聞きたくなくて逃げたくなる。でも正臣は私の手を離してくれなくて逃げれない。


「沙樹に会いにいったよ」

「…うん」


 嫌だ言わないで、そういいたいけれど正臣は真剣な表情で私を見ていていえなくて目を逸らす。


「ちゃんと話をした」

「……うん」


 つまりよりを戻したということなのだろう。私はやっぱり諦めるしかないなかな?滲できた涙を無理やり拭う。泣くな、私。泣かずに笑って正臣と沙樹を応援しなきゃ。正臣への思いは今日で終わり。今日、今、伝えなきゃ。


「っ正臣、」

「千花、好きだ」


 え? はっと正臣を見ると正臣は真剣な表情でそれでいて少してれたような顔をしていた。嘘だ、といいたいところだけど正臣の真剣な表情に押されてなにもいえなくなる。言葉がでない。


「……さ、沙樹とは、どうなったの…?」

「ちゃんと話をつけて、わかれたよ」


 嘘だ。本当だよ。そんな無駄な会話が少し続き私はやっと受け止めれた。沙樹とは話をつけて、正臣は私にあいにきてくれた? 私を好き? こらえてきた涙が溢れて頬を伝う。


「ちょ、千花ちゃん!? 俺の告白がそんなに嫌だったわけ!?」

「好きだよ、バカ」


 私の涙に戸惑う正臣に近づきキスをする。唇を離し正臣を見ると正臣はびっくりしたような顔をして少し赤面していた。私も自分でも大胆なことをした、と思い顔が熱くなる。いつの間にか涙は止まっていた。






今なら素直に好きと言える













(誕生日、おめでとう。プレゼントは私でいい?)
(…っなまえちゃん今日は大胆だな!?)
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