「よしお風呂に入ろう」

「…入ってくれば?」

「いや、臨也も」


――は? と珍しく驚いた顔をして臨也は千花を見るが、千花は「先にはいってるから」と言い、タオルと着替を持ち風呂へ向かっていった。千花がよくわからないことを唐突にいうのはよくあることだが、一緒に風呂に入ろうなんて言われたのは初めてだ。いくらよく知っている中だといっても付き合ってるわけでもない異性と風呂に入るなんてどうなんだ。異性に体を見せることも、異性の体を見ることも、千花には羞恥心がないのか。それとも異性として思われていないのか。いくら千花の方が年上だといっても1才しか変わらないのだから十分異性として意識するべきだろう。臨也は微妙な気分だった。


 ちゃぷん、と狭い風呂場に水の音が反響する。千花のマンションは臨也のマンションとは違い狭い。もちろん浴槽も例外ではなく二人ではいるのはどう考えても無理だろう。


「入んないのー?」


 呑気な千花の声が風呂場に響く。やはり羞恥心はどこかに捨ててきたようで千花はタオルで体を隠すようなこともせず浴槽に入っていた。そんな千花に臨也は呆れた笑いを漏らし「よってよ」といい千花の入っている浴槽へ体を沈めた。






「……」

「……なに?」


 じーっと臨也を見つめる千花の視線に臨也はいい加減耐え切れず千花に尋ねる。別に見られることに照れたりはしないが5分間も無言でみつめられればさすがに堪えるだろう。臨也は千花をいかがわしげにみるが千花は一切気にせずいった。


「いやあ、臨也はお湯に触れたら溶けるのかなあと思ってね。あぁ蒸発って手もあるなあ」


 まるでお腹がすいたなあ、とどうでもいい呟きのように千花はいうが臨也には一切理解できなかった。いや臨也以外の人物がこの場面に出くわしても誰ひとり千花の言うことは理解できないだろう。臨也は眉を潜めた。


「ごめん日本語で話してくれる?」

「Oh, that I'm sorry」


 とぼけたように笑顔で英語を返す千花に臨也はため息を吐く。この人は昔から本当に掴めない。普段は子供っぽいく振る舞っているのに急に一変して思わぬことをいいだし周りを困らせたりする愉快犯だ。ふらふらっと消えては急に現れたりするし本当に猫のような人だと臨也は思う。どんなにありとあらゆる力を使って調べても千花という人間は本当にわからない人だった。


「いやね、臨也は実は人間の皮を被った悪魔で、お湯に浸かると熱さで皮がとけて本性がでるかもしれない、って思ってね」

「は?」


 風呂場の天井を見上げながらいう千花に臨也は本当に意味がわからない、といった声を上げる。一方千花は真剣に臨也が悪魔ではないかと考えていたのだ。だから自分の体が見られることも惜しまず千花は臨也と風呂に入ろうと申し出たのだ。もちろん千花にも羞恥心だってしっかりある。人に、ましてや異性に全裸を見せることにだって恥ずかしいと思う気持ちもしっかりあるのだが、千花の中では臨也の生命体についてが最重要なことであって自分の体は二の次なのだ。千花はどんなに小さなことでも目的のためなら手段を選ばない人間である。しかし臨也はただの人間なわけで千花の求めていたことは起きるわけがなかった。千花は思わずため息を漏らす。


「臨也ってほんとわけわからないわね」

「千花に言われたくないんだけど?」


 諦めたように呟く千花に臨也は不服そうな顔をした。そんな臨也を気にすることもなく千花は湯舟から立ち上がった。


「上がる」

「本当にそれだけだったんだね。無駄に行動力のある君には本当に尊敬するよ」


最後にシャワーをあび風呂場をでていこうとする千花に臨也は皮肉っぽく笑いながら言った。それを気にすることなく千花は蛇口を捻り臨也にニヤリと意地の悪そうな笑いを見せた。キュッという音ともにシャワーが止まる。


「無駄とはなによ。その無駄な行動力で一個、誰も、本人の臨也でも知らない臨也の秘密をしったのに」

「なんのこと?」

「あなたのほくろの数」






浴槽におやすみ










ね?誰も知らないでしょ?となまえは子供っぽく笑って風呂場をでていった。
(100621)
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