「宮田先生っ!」
「仁科さん病院では静かに」
できるかぎりのかわいい笑顔を作り宮田先生がいる院長室の扉を開けた。そんな努力も虚しく宮田先生はいつも通りあたしをちらりと見ることもなくまた机に目をやる。宮田先生に注意されちゃった…!と少し喜んでしまうが今日はこんなことするためにきたのではないのだ。
「せんせ見て見て!」
あたしの呼びかけに宮田先生が顔を上げたのを確認してからその場でくるり、と一回転した。ヒラリと丈の短いスカートが舞うけれど気にしない。むしろもっと見てもいいんだよって感じだ。
「えへへっ」
ちょっと恥ずかしかったけれど頑張って着てみた丈の短いナース服。赤くなった頬に手を当てながら宮田先生を見ると、先生は一瞬だけど目を丸くして固まった。あ、その顔かわいい!宮田先生はいつも無表情だからちょっとでも表情が現れるとあたしは嬉しくてしょうがない。着てみたかいあったかも、そう思うと自然と顔がにやけてしまう。
「……コスプレですか」
「似合ってるかな?」
「誰から借りたか知りませんがうちの病院の品性が問われるようなことはしないでください」
期待するあたしの視線を無視しピシャリと宮田先生は言った。品性って…勤務時間にナースと逢い引きしてる宮田先生に言われたくない。せっかく知り合いのナースさんに貰ったから着てみたのに。丈も頑張って上げたのになぁ。何も言ってくれない宮田先生に悔しくなり、既に仕事を再開しだした宮田先生に近づき後ろから抱き着いた。
「ねえせんせ?あたしだめ?」
先生の耳元で吐息を混ぜながら呟く。相手にされないのは悲しくて寂しくて胸が痛くて張り裂けそうだから嫌だ。色仕掛けでもなんでもしなきゃ宮田先生はあたしを相手にしてくれないし。
「先生がナース服萌えって言うから着てみたのに」
「誰がそんなこと言ったんだ」
「婦長さん」
質問にちゃんと答えたのに宮田先生は深いため息を吐いた。あれ?違うの?もしかしてあたし婦長さんに騙されたのだろうか。年齢を感じさせない無邪気な婦長さんの笑顔を思い出す。
「でもあたし可愛くない?このままデートなんてどうですか」
「……」
「宮田先生、シカトはよくないと思います!」
しつこいあたしに宮田先生は嫌そうに眉を潜める。今日も見れた、あたしの好きな顔。あたしってサディスティックの気があるのかも。宮田先生ー?ともう一度呼ぶと宮田先生は首だけ振り返りあたしをじっと見た。どきりと心臓が跳ねる。先生の整った綺麗な顔が目の前にある。もう少しでキスしちゃいそう、なんて考えてると先生は口を開いた。
「答えはノーだ」
期待させんなバカ先生!と罵ってしまうところだった。そういう意地悪な所も大好き。
(110422_答えはノーだ)
title by 確かに恋だった