いてて、やってしまった。教える身のあたしが忍術に失敗してしまうなんて、みっともない以外の何物でもない。クスクスと上級生たちの笑う声が聞こえる。くのいちの子たちとは歳も近いし仲がいいから冗談を言い合ったりするけれど、こういう時は笑うんじゃなくて心配するべきなんじゃないだろうか。あたし、一応先生なのに。「医務室行ってくるね、自習!サボったら罰則だよ!」といい医務室に行く。やったーっ!っと声をあげる生徒たちに苦笑いをした。絶対サボる気だ。


「すいませーん」

 だらだらと血の流れる二の腕を庇いながら医務室の扉を開けた。薬の匂いが鼻腔をくすぐる。

「あ、千花先生!って、うわ!どうしたんですか!」
「あ、伊作くん。よかった、包帯くれない?」

 調度伊作くんは薬の整理をしているところあたしがきたことに大きな目を丸くして声を上げた。伊作くんは作業を中断して慌てて包帯をあたしに渡してくれた。いや渡そうとしてくれた。伊作くんが立ち上がりあたしに一歩近づいた瞬間、

「っ!!いった〜!!」
「だ、大丈夫!?」

 薬棚の角に足の小指ぶつけてしまったのだ。慌てていたからきっと威力は膨大だろう。小指に手を当て丸くなる伊作くんに背中がヒヤッとした。小指の痛さはあたしも何度も経験済みだ。

「だ、大丈夫です…それより先生包帯を…」
「あ、ありがとう…」

 死にそうな声になんだか申し訳なくなりながら、受けとった包帯を衣服も敗れてしまい剥き出しの二の腕に当てる。しかし一歩歩くだけでこんなに不運なことが起きるとは。不運委員長の名は伊達じゃなかった。そんなことを考えていると痛みが収まったのか伊作くんは顔を上げた。その優しそうな顔はあたしを見るときりっと真面目な顔に代わった。

「どうし、」
「千花せんせっ!何やってるんですか!!」
「えっえっ?」

 急に大きな声を上げた伊作くんにあたしは驚き肩をびくりと震わせた。ずきりと二の腕に鋭い痛みが走るが我慢我慢。しかしガシリと伊作くんの腕があたしに伸びてきて思いっきり掴む。

「ひぁっ!!いたいっ!!伊作くんいたい!!」
「あ、ごめんなさいっ!」

 二度目の強い痛みにはさすがにたえれず思わず悲鳴をあげてしまった。すぐに伊作くんは離してくれたけれど痛みはジンジンと響く。整った眉を八の字にしながら謝る伊作くんに大丈夫と今度はあたしが死にそうな声で言った。不運は移るとはこういうことなのだろうか。

「……えっとですね」
「……はい」

 ごほんと改まって伊作くんは口を開いた。あたしの方が立場が上なのになんで敬語になってんだあたし。伊作くんがすぅっと軽く息を吸い込む音が聞こえ何を言われるのだろうとあたしは軽く身構えた。

「消毒をしないなんてどういうつもりですか!菌が入ったり化膿したらどうするつもりです!?」
「へっ?…あ、はい。すいません」
「もう私がやります。腕を出して下さい!」

 訳もわからず言われた通り腕を伊作くんに向かってぴんっと伸ばすと伊作くんはあたしをその場に座らせさっきとは違い優しくあたしの腕を掴んだ。そしてそのまま消毒をされる。う、わあ、染みるこれ。やってもらってるのだから顔にださず痛がる。しかし伊作くんにはばれてしまったのか「我慢してくださいね」と優しい笑顔で言われた。伊作くんは忍術学園界のナイチンゲール様だろうか。

「伊作くん、ありがと」
「いえ…」

 きっとあたしは今だらしないしまりのない顔をしているだろう。ナイチンゲールの患者だ。お礼を言うと消毒を終え包帯を巻き始めた伊作くんは何故か顔を赤らめはじめた。なんで?顔が近いなぁなんて伊作くんの視線の先を見る。あ……伊作くんは立っているからあたしの胸が見えてしまっていたのだろう。

「え、と、粗末なもの見せてごめんね…」
「!!い、いえ!!」
「あ、たし、新野先生にやってもらおうかなー…」

 なんだかあたしも恥ずかしくなってしまいそういうと伊作くんの手を止め立ち上がろうとする。しかし伊作くんの手は離れてくれない。恥ずかしいからいいよ…なんて言わなくても赤くなって熱の篭ったあたしの顔を見ればわかるだろうに。全然伊作くんは離してくれない。

「伊作くん……?」
「……いっちゃヤダ」

 そういった伊作くんの顔はまるで捨てられた子犬のような瞳をしていてあたしは頬がより赤くなるのを感じた。どうして君はそんなにコロコロと表情を変えるかな…伊作くんのこと好きになっちゃいそう。優しく包帯をまかれながら、ずるい男、そう思った。





(110423_行っちゃヤダ)
title by 確かに恋だった
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