急にナツキが「観覧車に乗ろう」なんていうから慌てて支度をして家をでた。観覧車に乗るだけだから今日はポケモンたちは家でお留守番。相棒のデンリュウがしょぼんとしてたけれど、ポケモンたちにナツキと会ってはしゃいでるマスターの姿を見られるのは恥ずかしい。というのは建前であたしはただナツキと二人っきりになりたいだけだった。お母さんとお兄ちゃんには「でかける!」とだけ伝えて家をでたっけ。でもきっと張り切って着たお気に入りのワンピースとくるくる巻いた髪でナツキに会うのだとバレてしまってるだろう。「ナツキくんと仲良くなー」なんてお兄ちゃんの楽しそうな声が聞こえた気がした。
 電車に乗ってライモンシティについてナツキの姿を探す。きょろきょろと周りを見渡すあたしは田舎町からでてきた少女ってとこだろうか。実際あたしはライモンシティのような都会とは掛け離れた田舎町出身だけれど。

「千花!待たせてしまったか?心の準備をしていたらこんな時間に」
「ううん、今きたとこだから大丈夫だよ。てか心の準備って?」
「いやなんでもないんだ、気にしないでくれ。さあいこう」

 誤魔化すようなナツキの態度を不思議の思い歩き出したナツキの背中を追いかける。でもナツキは急に立ち止まって振り返ると、ちょっと頬を赤く染め照れたような顔をした。

「逸れるとまずいから手を繋いでやってもいい」
「!うん繋ぐ!」

 差し出させたナツキの手に自分の手を重ねた。ぎゅっと握られた手から伝わるナツキの体温は温かいんだけど不快じゃない。むしろ好きだなんて。子供の頃より大きくなったなあとぎゅっと握り返せばまたぎゅっと強く握られる。ちらっとナツキの顔を見ればさっきよりも照れた顔をしててあたしまで赤くなった。
 そんなことをしてればあっと言う間に観覧車についた。来る途中ナツキの口数が少ないことに違和感を覚えたけどなんなんだろう。くるくる回る観覧車を見上げれば子供の頃きた思い出が蘇る。

「あたし観覧車なんて久しぶりだよ。楽しみだね!高いとこは景色が綺麗で結構好きなんだよね」
「そ、そうか」
「……なんか、ナツキおかしくない?」
「えっ?」
「あはっ!何その声!」

 ナツキの焦ったような裏返った声思わず笑ってしまった。こういう可愛らしい一面があるからあたしはナツキの隣にいられるのかも。ナツキが完璧なエリートトレーナーだったらあたしはきっと今ナツキの隣にいないだろう。こういうところも大好きだ。

「あ、ナツキもしかして怖いの?」
「そ、そんなわけないだろう!」

 そういうとナツキはあたしの手をぐいっと引っ張りながら観覧車に乗った。途中の段差に転びそうになったけどナツキが支えてくれて大丈夫だった。触れた胸板にやっぱ子供の頃とは違うと一人頬を赤らめる。向かい合うように座るとカチャンとドアが閉まり観覧車は動き出した。

「…………」
「……ナツキ、怒ってる?」
「いや、怒っていない…」
「ならよかった。あ、ポケセンがあんなに小さく見えるよ!ほらあそこ!」
「あ、あぁ」

 あたしの家も見えるかなー!なんて景色を楽しむけどナツキは頂上に近づくにつれ青くなりだした。やっぱりへんだ。どうしたの?と顔を覗き込もうとした瞬間、

「な、ナツキ?どうしたの?」
「……千花、」
「え?」

 何故かあたしはナツキに抱きしめられていた。ぎゅーっと縋り付くようなナツキにあたしも不安になる。本当にどうしたの?とナツキの背中に手を回すとナツキはあたしをより強く抱きしめた。なんだか手を繋いだ時みたいだ。

「ナツキ?」
「こ、怖いんだ…!」
「はえっ?」
「高いところはやっぱり無理です…!ごめんなさい…!」

 ふるふると軽く震え出した肩に涙混じりな声。急な敬語と態度の一辺に驚きあたしも素っ頓狂な声を出してしまった。まさかナツキが高所恐怖症だたたなんて。知らなかった。

「だ、大丈夫だよナツキ!」
「でも…お、落ちたらどうするんだ…!やっぱりダメだぁ…!」
「ナツキ……」

涙を浮かべるナツキにあたしは母性本能が働いたのか不謹慎ながらきゅんとしてしまった。ぎゅうっと抱き着いてくるナツキにちょっと痛いなぁと思いながらも安心するように頭を撫でてあげた。

「落ち着いてナツキ」
「……でも、」
「絶対大丈夫だよ。だってナツキにはあたしがいるんだもん!ね?」

 ナツキみたいなエリートトレーナーじゃないけどあたしだってポケモンバトルはいっぱい熟してきた。何よりうちのデンリュウは最強だもん。絶対に何があってもナツキを守ってあげるよ。そういうとナツキは涙を浮かべた目をきょとんさせた後、あたしの大好きな笑顔で笑った。

「……そうだな。千花が側にいれば安心だよ」
「あはは、そもそももう着いてるしね」
「……え?」
「ご乗車頂き誠にありがとうございましたー!気をつけてお降りくださいー!」








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「どうして観覧車に乗ろうなんて?」
「千花のお兄さんに千花は観覧車が大好きって聞いたんだ」
「それで高所恐怖症なのに付き合ってくれたの?ありがとナツキ!大好きだよ!」
「私も千花が好きだ…それに恐怖も克服してこそ真のエリートだからな……」

 確かに観覧車は好きだけれど一番好きなのは高所恐怖症の兄を脅かすことだったなんて、言えるわけがない。

(110620)
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